2017 Fiscal Year Research-status Report
ヤスデ類における種分化プロセスを通した警告色のミュラー型擬態の進化機構の解明
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16K07482
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
田邊 力 熊本大学, 先端科学研究部, 教授 (30372220)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 擬態 / ヤスデ / 寄生 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ミドリババヤスデ種複合体ヤスデ類において、(1)非擬態環型のオレンジ種から灰のミュラー型擬態環を形成する種が生じ、その後、(2)集団ごとの交尾器・体サイズの多様化に起因する多発的種分化により体色の多様化が促進され、(3)灰擬態環の一部の種において非擬態環型オレンジへの先祖返り(擬態環の消失)、灰とオレンジの中間色への移行、及び別のオレンジのミュラー型擬態環への移行が生じたとする仮説を検証し、種分化プロセスを通したミュラー型擬態の進化機構を解明することを目的とする。仮説の検証は、大きく以下の2項目から構成され、それぞれについて以下の成果を得た。 (1)灰とオレンジ擬態環の形成を含む体色進化パターンの証明 野外調査等により、オレンジのヤスデ2種の同所地点を3地点追加し、計4地点とした。これら同所地点はオレンジ擬態環の存在を示唆するものとして重要である。 (2)上記体色進化パターンの生成要因の解明 上記の新たに追加されたヤスデを含めて、中部地方東部から関西地方にかけての80集団990個体のヤスデにおいて、灰、オレンジ、灰とオレンジの中間色の三つのカラーモルフ間で、ハエの寄生率の差を統計検定し、灰と中間色はオレンジよりも有意にハエに寄生されるデータを得た。この結果は、灰擬態環は鳥の捕食に対しては有効であると考えられるが、寄生バエに対しては不利になる可能性を示唆している。捕食者による体色への影響の差が擬態環の形成に関与している可能性があり、興味深い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は研究実績の概要で述べた以下の2項目から構成される。それぞれについて進捗状況を述べる。 (1)灰とオレンジ擬態環の形成を含む体色進化パターンの証明 栃木県から沖縄県までの25地点でヤスデ類の採集を行った。さらに、同地域の6地点で得られたヤスデ類の提供を受けた。これら31地点のヤスデ類について、体色写真撮影データ、体色反射波形データ、RAD-seqによるDNAシークエンス解析用サンプルを追加した。これにより、灰とオレンジ擬態環証明するために概ね必要なデータ並びにサンプルを得ることができた。 (2)上記体色進化パターンの生成要因の解明 研究実績の概要で述べたように、灰擬態環は鳥の捕食に対しては有効であると考えられるが、寄生バエに対しては不利との仮説を立てて、その検証を進めている。寄生バエについては、灰、オレンジ、灰とオレンジの中間色の三つのカラーモルフ間での寄生率の差の解析は概ね終了している。現在は、生きたヤスデとハエを用いて、ハエが灰とオレンジのヤスデのどちらに寄生するかを実験的に検証する準備を進めている。鳥の捕食については、平成28年度に実施したクレイモデル実験のデータ解析はまだ行えておらず、今後の課題となる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は研究実績の概要で述べた以下の2項目から構成される。それぞれについて推進方策を述べる。 (1)灰とオレンジ擬態環の形成を含む体色進化パターンの証明 体色進化パターンの証明において必須となる集団間の系統情報について、RAD-seqにより得られる塩基配列に基づく系統推定を試みる。現在、そのためのヤスデ類からのDNA抽出を進めているところである。現段階では、ミトコンドリアDNAのCOI・COII及び核のEF1α領域の配列に基づく系統情報を解析に用いているが、RAD-seqで得られる塩基配列を用いることで、系統情報は格段に精度が上がるものと期待される。 (2)上記体色進化パターンの生成要因の解明 体色進化パターンの生成要因として、ハエ類の寄生に注目している。ヤスデに産み付けられている寄生バエの卵のデータから、寄生バエがオレンジのヤスデよりも、灰及び灰とオレンジの中間色のヤスデにより寄生しているデータが得られているところであるが、生きたハエとヤスデを用いた選択実験により同様の結果が得られれば、ハエがヤスデの色に応じて産卵していることはより確かなものとなる。選択実験の実現に向けて、生きたハエ類の採集と飼育法の確立を試みる。
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Causes of Carryover |
昨年度途中にRAD-seqの解析委託を行う予定であったが、ヤスデ類のサンプル採集にかなりの時間を要し、委託まで作業を進めることができなかった。RAD-seqの解析委託は今年度行う予定であり、そのための費用約100万円と関係試薬類の費用を平成30年度に使用することとした。 以下の計画で使用する。 (1)系統解析用シークエンスデータの取得のための、RAD-seqの解析受託費として、約100万円を使用する。(2)解析用サンプルの採集旅費、試薬等の消耗品、謝金、成果の発表のための学会発表の旅費等で残りの助成金を使用する。
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Research Products
(10 results)