2016 Fiscal Year Research-status Report
社会性アブラムシにおける環境要因と母性効果を介した階級分化と社会制御
Project/Area Number |
16K07504
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
柴尾 晴信 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任研究員 (90401207)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 社会性昆虫 / 階級分化 / 母性効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、社会性アブラムシであるハクウンボクハナフシアブラムシをモデル系として、社会性昆虫におけるコロニーの協調と制御の仕組みの理解をめざすものであり、アブラムシの社会的相互作用・母性効果を介した階級分化の制御機構や個体間コミュニケーションの実態を解明することを目的としている。 今年度は、本種の階級分化調節フェロモンを特定するべく、アブラムシの兵隊および生殖虫の体表面を覆っているワックスをヘキサンで抽出し、各種クロマトグラフィー・モレキュラーシーブを駆使しながら分離した成分をガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)で分析した。その結果、両階級のアブラムシの体表成分は炭化水素(直鎖飽和炭化水素および分枝鎖飽和炭化水素)、長鎖アルコール、長鎖アルデヒド、ワックスエステルで構成されており、階級間で体表成分の化学的プロフィールに違いが存在することが明らかになった。 また今年度は、これらの体表物質に対するアブラムシの触角の嗅覚応答を測定するために、GCで分画した匂い物質に対する触角の応答をリアルタイムで記録できる「昆虫触角電図検出器付きガスクロマトグラフィー(GC-EAD)」を導入し、機器のセットアップと調整作業を進めた。機器の導入時期が冬のオフシーズンにずれ込んだため、実験用のアブラムシを野外で得ることがむずかしかったが、他の昆虫(ミツバチ、マメゾウムシ、ゾウムシコガネコバチ)で代用して触角の応答を検出することに成功した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、ハクウンボクハナフシアブラムシの兵隊および生殖虫の体表面を覆っている化学物質の分析が進み、階級間で体表成分の化学的プロフィールに違いが存在することを明らかにした。これにより、今後の階級分化調節フェロモンの存在の確認と成分の特定の道筋が見えてきたため、研究が発展すると考えられる。また今年度は、GCで分画した匂い物質に対する触角の応答をリアルタイムで記録でき、本研究の遂行において不可欠の機器である「昆虫触角電図検出器付きガスクロマトグラフィー(GC-EAD)」のセットアップと調整が完了しており、次年度以降の解析に向け準備が進んでいる。
|
Strategy for Future Research Activity |
生殖虫に特有の体表成分のなかに兵隊分化を促進するフェロモンがあり、兵隊に特有の体表成分のなかに兵隊分化を抑制するフェロモンがあると予想されることから、今後は各階級に特有の体表成分に注目することで、階級分化調節フェロモンの候補物質を絞り込んでいく。また、フェロモン候補物質の化学合成を行ない、合成物質に対するアブラムシ触角の嗅覚応答を測定する。さらに、階級特有の合成物質を塗布したガラスビーズと一緒にアブラムシ成虫を飼育し、母性効果を介した子の階級分化の調整が見られるかのバイオアッセイを行なう。
|
Causes of Carryover |
触角電図とガスクロを連結させたGC-EADのセットアップと調整に時間がかかり、その分だけ実験回数が減少したために、消耗品費の使用額が少なくなってしまい、わずかながら次年度使用額が生じた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
今回生じた次年度使用額は、アブラムシの体表成分の分析やフェロモン候補物質の化学合成、兵隊分化のバイオアッセイ実験に使用する。
|
Research Products
(1 results)