2017 Fiscal Year Research-status Report
中・長期モニタリングデータの解析によるサンゴ群集の時空間動態の解明
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16K07506
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
竹垣 草世香 (向草世香) 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 客員研究員 (30546106)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | サンゴ群集 / 撹乱 / 回復 |
Outline of Annual Research Achievements |
石西礁湖のサンゴ群集の現状を評価するために、2014年から2016年までの環境省モニタリングサイト1000事業の調査データを追加し、データベースを更新した。2016年に大規模なサンゴ白化が生じ、サンゴ被度は顕著に減少した(202調査地点の平均被度:2015年は30.3%、2016年は20.3%)。サンゴ被度が30%を超える地点のほとんどは、コモンサンゴやユビエダハマサンゴなど白化の影響を受けにくいサンゴが優占しており、ミドリイシ科サンゴが見られたのは西表島北部とヨナラ水道の地点に限られていた。石西礁湖内部のサンゴ被度は2016年も5~10%と低かったが、昨年度の解析からサンゴ回復力は低いことが示されており、サンゴ群集の迅速な回復は期待できないと考えられる。一方、北側外縁部のサンゴ被度は2016年に10~30%に減少したが、ミドリイシ科新規加入数が多くサンゴ回復力が高いため、大規模白化などの大きな撹乱がなければ今後の被度増加が期待できる。 これまで環境省モニタリングサイト1000事業の調査データを詳細に解析してきたが、モニタリングサイト1000事業ではサンゴ被度や撹乱ダメージなどの定量的データを目視観測で算出している。観測データの検証を行うため、サンゴ被度が5~50%の範囲で12地点を選出し、精度が高いとされるフォトトランセクト法によるデジタル画像解析と目視観測の結果を比較した。デジタル画像解析と目視観測で得られたサンゴ被度は有意な正の相関が見られたが、目視観測は高被度地点ほどサンゴ被度を過大評価する傾向が見られたことが分かった。 また、優占種の生活史特性を明らかにするために、石西礁湖のクシハダミドリイシ、長崎のエンタクミドリイシについて、マーキング個体の生存確認や投影面積の計測を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで石西礁湖および周辺海域での環境省モニタリングサイト1000事業の調査データを集中的に解析し、サンゴ被度の年変化パターンの類別や撹乱要因との関係性の検討を行ってきた。得られた結果を学術論文にまとめたが、モニタリングサイト1000事業ではサンゴ被度や撹乱ダメージなど定量的なデータに関しても目視観測を行っているためデータの信頼性が疑問視され、国際学術雑誌での出版には至らなかった。その疑問に答えるため、今年度は最も精度が高いとされているフォトトランセクト法を用いた野外調査を行い、デジタル画像解析によりサンゴ被度を算出し、目視観測による結果と比較した。デジタル画像解析と目視観測で得られたサンゴ被度は有意な正の相関が見られたが、目視観測はサンゴ被度を過大評価する傾向があった。今後は過大評価の要因が、サンゴの種や分布パターン、調査の空間スケールによって生じるのかを検討する必要がある。 上述した結果から、モニタリングサイト1000事業の調査データには誤差が少なからず含まれると考えられる。これまで行ってきた解析の精度を再検討する必要があるだろう。とくに、サンゴ被度の年変化についての時系列クラスター解析はサンゴ被度の変化量に敏感であるため、再考した方が良いと思われる。 一方、優占種であるテーブル状ミドリイシ類サンゴについては、調査データの整備が完了し、死亡率や成長率などの基礎データの収集が進められた。
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Strategy for Future Research Activity |
サンゴ群集の時空間ダイナミクスに関しては、サンゴ被度を数段階にクラス分けし、クラスの年変化パターンを類別化する方法を考案する。石西礁湖および周辺海域に関して時系列クラスター解析でこれまでに得られた結果と比較し、有用な方法を検討する。その方法にもとづいて亜熱帯から温帯について再度解析を行い、サンゴ被度の年変化の類別化や変動傾向が類似する空間スケールを明らかにする。 また、優占種の生活史特性について、石西礁湖のクシハダミドリイシ、長崎のエンタクミドリイシに関して、マーキング個体の生存確認や投影面積の計測を引き続き進め、亜熱帯と暖温帯の違いを明らかにする。 石西礁湖のサンゴ群集復元力に関しては、物理的環境要因のデータ収集と整理を引き続き行い、サンゴ被度の増加量との関係性を解析する。
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Causes of Carryover |
調査データを解析する研究補助者の雇用期間が、補助者の体調不良により急遽短縮し、計上していた予算が未使用となったため、次年度使用が生じた。次年度では野外調査器材の購入や英文校正、研究成果発表の旅費に予算を充当する。
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