2017 Fiscal Year Research-status Report
沿岸域におけるSkeletonema属珪藻の群集構造解析
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16K07508
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Research Institution | Tokyo University of Marine Science and Technology |
Principal Investigator |
片野 俊也 東京海洋大学, 学術研究院, 准教授 (00509820)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 定量PCR / 季節変化 / 種間競争 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、1)リアルタイムPCRにおいて、底泥中、水中試料の定量のための検量線の作成、2)底泥中のSkeletonema属珪藻の種毎の細胞密度の季節変動、3)水中でのSkeletonema属2種(S. marinoi-dohrnii complex, S. japonicum)の種間競争について、研究を進めた。 リアルタイムPCRについては、水、泥の両方について、検量線の作成を完了した。これを用いて、東京湾奥部の泥中のSkeletonema属の種毎の細胞密度について調べた。東京湾奥部では泥1gあたり8月17日には130万細胞が検出された。9月には約70万細胞、10―12月は約20万細胞で推移した。12月には培養(MPN法)による休眠期細胞の定量を行ったところ、泥1gあたり7万コロニーが発芽した。PCRによる定量は、培養法と比べて、およそ桁がずれるほどの過大/過小評価にはなっていないものと思われた。また、種組成については、8月はS. marinoi-dohrnii complexがSkeletonemaの93%を占めていたが、9月以降64%, 45%, 9%と減少し、代わりにS. japonicumが8月の5%から9月以降には、30%, 49%, 85%, 94%と割合を高めた。このように泥中のSkeletonemaの細胞密度および組成は大きく変化していることが明らかになった。 水中でのSkeletonema属の種遷移機構としては、同一環境条件であっても細胞サイズがサイズ回復するまでは小さいほど増殖速度が高まることを見いだした。細胞サイズの大小関係をいれかえたSkletoenema 属の2種を用いて培養実験を行い、種間競争の結果が細胞サイズによって変わることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、分子生物学的手法により、Skeletonema属珪藻の種毎の定量方法を確立する。この際には、分子生物学的手法による同定方法の妥当性評価のために、単離培養を積み重ねSEMおよび遺伝子配列解析を行い、方法の妥当性を確認すると共に知見の蓄積をはかる。さらに、野外において、種遷移の実態解明、種遷移機構として1)水柱でのSkeletonema属の種間競争 2)底泥の休眠期細胞の環境条件による発芽選択性に着目して研究を進めている。これまでにPCR法によるマルチプレックスPCRおよびリアルタイムPCR法を、培養株を用いて検討を進め確立した。 現時点では、PCR法は、マルチプレックスPCRおよびリアルタイムPCRの2種類の方法が確立できた。一方FISH法の開発は中断し、かわりにこれまでに開発が完了したPCR法を活用して野外試料の解析を中心に進めている。昨年度までに、マルチプレックスPCRを完成させると共に、水中の出現種解析を行った。今年度はリアルタイムPCRの検量線を水試料、泥試料のそれぞれについて作成し定量PCR法が完成した。泥中での細胞密度の変化について明らかに出来た。 なお、単離培養株については、これまでに76株を分離した。数多くの株から、安価簡便なDNA抽出方法を検討した。現在は、血液からのDNA抽出キットを用いることで、10分程度でPCR可能なDNAを得る事が出来るようになった。この方法によって全ての単離培養株からDNAを抽出し、現在種同定を進めているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、水柱および泥中のSkeletonema属珪藻の細胞密度と種組成を同時に調べる。これによって初めて水柱でのSkeletonema属珪藻の季節変化とそれに対する底泥の役割について検討が出来る様になる。現時点では、現場観測の結果からは、東京湾奥部の珪藻赤潮が頻発する海域においては、透明度が低いため、海底まで休眠期細胞の発芽に必要な光が届くのは1年のうち、秋から冬の限られた期間のみであることが分かってきている。従って、内湾底泥は、水柱群集のシードポピュレーション(ソース)というよりも、履歴を残すシンクとしての役割が大きいと考えている。シードポピュレーションとしては、湾内の岸寄りの水深の浅い海域と流入河川の感潮河道に分布している可能性を検討している。 また、これまでに単離されたSkeletonema属の培養株については、引き続き種同定をすすめていく予定である。
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Causes of Carryover |
リアルタイムPCRの試薬、消耗品の使用が見込みよりも少なかった。一方今年度は、水柱と泥についてリアルタイムPCRを行うこと、および次世代シーケンス法による種組成解析を行うため、当初計画よりも支出計画は大きくなる予定である。
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