2017 Fiscal Year Research-status Report
フタバガキ科樹木における種子散布パターンと実生更新特性との関係
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16K07513
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
中川 弥智子 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (70447837)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 種子散布パターン / フタバガキ科 / 実生定着制限 |
Outline of Annual Research Achievements |
種の多様性が極めて高い東南アジア熱帯雨林において、優占種や林業的有用種を多く含むフタバガキ科の果実形態は実に様々である。萼片由来である翼が大きく発達した風散布種もあれば、翼がない重力散布種もあるうえ、翼や果実のサイズも大小様々なため、種子散布パターンは種によって大きく異なることが予想される。しかし、フタバガキ科の種子散布に関する先行研究は非常に限られており、果実を人為的に落下させる実験や、孤立木から散布された果実を対象として種子散布パターンを推定した先行研究があるものの、自然状態での種子散布パターンについてはこれまで報告がほとんどない。他方で、種子散布の適応的意義にもつながると考えられる実生初期段階の定着制限要因としては、光・土壌などの非生物的要因に加えて、同種や近縁種の密度、食害といった生物的要因、および自殖や近交弱勢といった遺伝的要因が考えられる。 そこで、昨年度に実験・解析したフタバガキ科2種(Shorea beccariana:大きな翼が3枚、 Dipterocarpus globosus:大きな翼が2枚)を材料に、種子散布距離と非生物的・生物的要因が当年生実生の生残に与える影響を解析した。両種とも初期サイズが大きいほど生き残りやすく、くわえてS. beccarianaでは、フタバカキ科当年生実生密度が高いほど生残率が高くなったことから、種子~実生定着過程での食害者に対する飽食効果が示唆された。一方で種子散布距離の生残に対する効果は検出されなかった。 また、大きな翼を5枚有するフタバガキ科1 種(Dryobalanops aromatica)の遺伝実験を行った。今後、解析を行うことで種子散布パターンを明らかにするとともに、種による果実形態の違いが種子散布パターンに及ぼす影響と、Dryobalanops aromaticaの実生動態を左右する要因を解明する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
より精度の高い種子散布パターンを得るためには、遺伝実験に用いるマイクロサテライトマーカーの数を増やす必要があると考えたため、今年度遺伝実験を行ったDryobalanops aromaticaでは、当該種だけでなく他種で開発された様々なマイクロサテライトマーカーを対象に利用可能なマーカーの選定と実験条件の調整を行ったところ、遺伝実験の事前準備に予想以上に時間がかかった。また、他用務にかなりの時間を取られ、解析まで完了することができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、フタバガキ科の開花・結実が起これば、複数の樹種を対象に散布直後の果実・実生を対象に追加サンプリングし、より精度の高い種子散布パターンの推定や、様々な果実形態を持つ樹種の種子散布パターンの解明に努める。また、先行して遺伝実験・解析を終えた2種についても、種子散布パターンの推定精度を上げるため、マイクロサテライトマーカーの数を増やして、追加実験と再解析の実施を検討中である。さらに、個体識別した当年生実生の動態を長期にわたって追跡調査することで、成長に伴った実生定着制限要因の変化を特定し、フタバガキ科における種子散布パターンと実生定着制限要因との関連性を検討する。
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Research Products
(3 results)