2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K07515
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
椿 宜高 京都大学, 生態学研究センター, 名誉教授 (30108641)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
清 拓哉 独立行政法人国立科学博物館, 動物研究部, 研究員 (40599495)
高橋 純一 京都産業大学, 総合生命科学部, 准教授 (40530027)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 形質置換 / シグナル / 種分化 / mtDNA / 地理変異 / 体温調節 / 性淘汰 / 種認識 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)形質置換の交尾相手選択における有効性 台湾産のM. tenuisについての行動観察の結果、日本産の2種のカワトンボと同様に、M. tenuisでも集団内にオスの多型がみられ、オレンジ翅オスはナワバリをもち、透明翅オスは縄張りを持たずスニーカーとして行動することがわかった。このような集団内のオス行動多型と翅色型はMnais属に共通の特徴であると思われる。 国立科学博物館に所蔵の標本を含めて、M. costalis、M. pruinosa、M. tenuis、M. mnemeの形態計測(体重、腹長、翅長など)を行ったところ、地理分布と体サイズの間に興味深い関係があることがわかった。まず、翅長と体重は種や性に関わらず高い正の相関が見られた。つまり、属内では翼荷重はほぼ一定である。そして、翅長は高緯度ほど長くなる傾向があり、ベルグマン則に従うことがわかった。ところが、腹長は高緯度ほど短くなり、逆ベルクマン則(あるいはアレン則)に従うこともわかった。我々がこれまでに蓄積してきたカワトンボにおける体温調節の研究成果と総合して考えると、繁殖活動には気温(20℃程度)よりも高い胸部体温(30℃程度)が必要で、高緯度地域では大きな体サイズが日照によって上昇した体温の維持に有利となると考えられた。 (2)DNA解析による同所的集団と異所的集団の遺伝的距離 東アジアに分布するMnais属カワトンボにおける日本産M.costalisとM. pruinosaの系統的位置を明らかにするために、台湾特産種のM. tenuisの標本採集と行動観察をおこなった。採集した標本からDNAを抽出し、mtDNA全ゲノムの解析を行った。また、日本産のM. costalisとM. pruinosaについても新たな集団に関する全ゲノム解析を行った。これらの解析結果をもとに、属内の系統関係を明らかにする予定。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)形質置換の交尾相手選択における有効性 近畿地方の同所的なMnais属カワトンボ2種ではオスの翅色に形質置換が生じ、メスがオスの翅色によって種認識を行っていることがわかった。しかし、西日本の同所的な地域ではオスの多型は消失しない。そのため、メスが種識別をすることが困難になっていると思われる。29年度の調査で、西日本ではM. costalisにおいてメスに形質置換が生じていることがわかった。つまり、メスの翅色は淡橙色になり、M. pruinosaのメスとはかなり異なっている。そしてオスはメスの種識別を行うようである。また、生息地分離の傾向が強いことも示唆されており、形質置換の起こり方、どちらの性が種認識を行うか、性淘汰と繁殖干渉の拮抗作用などに地理的な変異があることがわかってきた。 (2)DNA解析による同所的集団と異所的集団の遺伝的距離 日本産のM. costalisやM. pruinosaとの系統関係を明らかにするとともに、台湾産のM. tenuisを含めてMnais属の系統関係と種内の地理的遺伝変異を明らかにする目的で、mtDNA全ゲノム配列を決定した。 以上の理由で、この課題は概ね順調と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)形質置換の交尾相手選択における有効性 これまでの結果から、種認識のプロセスは地域集団によって差異があることがわかってきたので、データをより充実させる必要があると思われる。とくにM. costalisに関して、関東以北の異所的集団、近畿地方の同所的集団、中国地方の同所的集団の繁殖行動の比較を行い、生息地分離の程度、形質置換の程度、種認識のプロセスを比較し、表現系レベルにおける生態学的種分化のシナリオを構築する。 (2)DNA解析による同所的集団と異所的集団の遺伝的距離 30年度中に地理的変異の解析に必要なDNA領域の探索を終えて、関東以北の異所的集団、近畿地方の同所的集団、中国/九州/四国地方の同所的集団の比較解析を進める予定。遺伝子レベルでの種分化シナリオを構築し、上記の表現系レベルのシナリオとの整合性を見る。
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