2017 Fiscal Year Research-status Report
アリ植物共生系における種間関係の変異がもたらす昆虫の化学的戦略の多様性
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16K07516
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Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
乾 陽子 大阪教育大学, 教育学部, 准教授 (10343261)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 化学擬態 / アリ植物 / シジミチョウ / 熱帯雨林 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では,東南アジア熱帯地域に分布するアリ植物について,共生アリが防衛者として機能しているにもかかわらずアリ植物を利用したりアリコロニー内に共棲する昆虫類の化学擬態の戦略を明らかにすることを目的としている。28年度までに,特にオオバギ属アリ植物を専食するムラサキシジミ属のシジミチョウの幼虫について,独特の擬態戦略を有していることを化学的に明らかにし,29年度は特にその内容について論文の投稿準備を行った。28年度後半から29年度前半にかけては,産休育休にともない一時的に完全に研究活動を停止し,またその後も育児のため研究活動は大きく制限され,特に調査地である熱帯雨林地域への渡航と現地サンプリング現地調査は困難となった。そこで,当初計画にはなかった研究対象として,同じくシジミチョウ科で日本国内に分布するアリ共生型種のシジミチョウ類にも対象を拡大し,それらのサンプリングと体表成分の分析を行った。その結果,宿主アリに化学擬態するという好蟻性昆虫ではよく知られた戦略をもつと考えられている日本のシジミチョウ類においても,同胞認識を行うワーカーを化学擬態するのではなく,ワーカーのケアを期待できる幼虫や蛹に特有の成分を擬態していることが確認された。これは,日本国内の別のシジミチョウ種を対象にした先行研究でも知られている特徴であり,日本のシジミチョウ類のような完全に巣内社会寄生をする好蟻性昆虫では宿主アリの成熟ワーカーないし未熟虫を擬態するのが不可欠な戦略であることを示唆している。これは,熱帯のムラサキシジミが好蟻性シジミチョウとしては非常に特殊な擬態戦略をもつことを支持している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
育児休業ならびに育児に伴い,やむをえず研究活動の停止ならびに大幅な制限をせざるをえなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
研究協力者との体制を再確認し,現地でのサンプリングや生きた虫を用いる行動実験や野外調査などについては,渡航が可能な協力者に依頼し,必要に応じて研究協力者を増員する。ムラサキシジミ属の独特の化学擬態法についての成果を,論文発表することを最優先とし,ついで新属ゴキブリ類の独自の化学戦略についての成果発表を優先する。ゴキブリ類については,サンプル数の増強が必要と考えており,これはすでにサンプリングのプロトコルを確立しているので,協力者に急ぎ現地でのサンプリングなどを依頼していく。また,日本のシジミチョウ類を広く分析した結果についても,順次必要な数を揃えていき網羅的な調査から成果を出すことを目指す。また,とくに多くの種を対象にできるシジミチョウとその宿主アリとについて,化学擬態戦略の多様化について,アリとの関係性からの解析を行っていく。
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Causes of Carryover |
妊娠出産のため、当初計画していた調査地への渡航・滞在ができなかった。これに伴い、旅費の使用額が予定額を大幅に下回った。また、産休育休に伴う一時的な研究活動の中断のため、物品購入費についても当初予定よりも少なかったため。 今後の使用計画として,昨年度末に想定外の機器類の故障と修理が発生していたため,GC-MSのポンプのみを急ぎ更新したが,今後,予期せぬ故障の際に大幅な出費とならないように,細部のメンテナンスを前倒しで行い,分析に支障がないように整備したく,そのために使用する。また,本課題はすでに産休育休に伴う延長を申請して認められており,当初の研究費で研究期間を延長したので,使用額のスケジュールは変更となるものの,内容は大きな変更はないものと予定している。
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