2017 Fiscal Year Research-status Report
親の保護シンドロームの進化:ツノカメムシ類の系統種間比較による検討
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16K07518
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Research Institution | Naruto University of Education |
Principal Investigator |
工藤 慎一 鳴門教育大学, 大学院学校教育研究科, 准教授 (90284330)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉澤 和徳 北海道大学, 農学研究院, 准教授 (10322843)
沓掛 展之 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 講師 (20435647)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 親による子の保護 |
Outline of Annual Research Achievements |
生活史データ:今世紀に入っておよそ50年ぶりに再発見され,これまで全く情報の無かったキオビツノカメムシ(以下,ツノカメムシを省略)で,(小サンプルながら)クラッチサイズ,卵サイズ,卵・1令期間など本研究で対象とするすべての形質データが得られた。本種の属するキオビツノカメムシ属は,所属種すべてで保護の知られるヒメツノカメムシ属の姉妹群の可能性があり(Tsai et al. 2015),これらのデータは今後の比較分析にきわめて重要である。さらに,データ数がわずかだったヒメハサミとフタテンでも追加データを得ることができた。 野外の卵死亡率:アオモンの野外における卵死亡率の測定を行ったところ,同じ無保護のベニモンの卵死亡率と比べて非常に低いことが判明した。この低死亡率は,産卵時期が早春であり活動中の捕食者が低密度であることに起因している可能性が高い。興味深いことに,卵の主要な捕食者は同種の若齢幼虫であることも明らかとなった。 系統種間比較:これまで得られた形質データを用いて予備的ながら系統種間比較(PGLS)を行ったところ,従来の生活史進化理論の常識を覆す結果が得られた。すなわち,保護の進化は小卵・多産の進化と相関しており,大型卵ほど発育期間が長引くという有力仮説も支持されなかった。さらに,保護の進化がクラッチサイズ変異や卵の形状と関連する可能性も示唆された。分析方法の吟味を含めて,最終年度には結論が得られるよう努力したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
入手困難と思われたキオビツノカメムシを始め,分析対象となる生活史データの得られた種は順調に追加されており,予備的な分析が可能なレヴェルに達している。さらにこの予備的分析は,ツノカメムシ類における形質間の共進化パターンが従来の生活史進化理論の前提や予測を覆す可能性を示唆している。今後の展開に大いに期待を抱かせる成果が得られており,研究は順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は本研究課題の最終年度であり,最終的な結論を得るため以下の方針で研究を進めたい。まず,保護が繰り返し進化したと推測されているツノカメムシ属の日本産未調査種(フトハサミツノ,イシハラハサミツノ)および系統仮説に含まれる台湾産の未調査種で生活史データを得る等,系統種間比較に向けたデータ収集を可能な限り進める。繁殖シーズン終了後,採用する比較分析方法を決定し,ツノカメムシ類における子の保護を含めた生活史形質間の相関進化に関して最終的な結論を得る。本研究の成果の一部は,8月にアメリカ合衆国ミネアポリスで開催される国際行動生態学会議で発表する予定である。
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Causes of Carryover |
理由:平成29年度の研究を予定通り実施した結果,特に謝金対象となるデータ分析の補助業務が予定よりも短時間で終了し残金がでたので,翌年度に有効利用することとした。
使用計画:平成30年度において,物品費あるいは人件費・謝金の一部に充てる。
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