2018 Fiscal Year Research-status Report
学習と資源獲得への時間配分の進化に関する理論・実験研究
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16K07524
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Research Institution | Kochi University of Technology |
Principal Investigator |
小林 豊 高知工科大学, 経済・マネジメント学群, 准教授 (70517169)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
若野 友一郎 明治大学, 総合数理学部, 専任教授 (10376551)
大槻 久 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 准教授 (50517802)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 包括適応度理論 / ニッチ構築 / 社会学習 / 個体学習 / 文化・遺伝子共進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請書に記載された通り、本研究の目的は、(A)学習と資源獲得への時間配分の進化を記述した数理モデルの分析を通して、著しい技術・知識の蓄積を可能にするヒト集団に特有のメカニズムを解明すること、および(B)実際のヒトを用いた実験を行い、モデルの前提の妥当性を検証することである。さらに、理論パート(A)は、以下、3つのサブパートに分かれている。その3つとは、①第一に、集団のグループ構造が技術・知識の蓄積的な発展を促進するかどうか、②第二に、ニッチ構築のメカニズムが技術・知識の蓄積的な発展を促進するかどうか、②そして第三に、多対一伝承(一人の学習者が大勢から知識を受け継ぐこと)が技術・知識の蓄積的発展を可能にするかどうかを明らかにすることである。既に①の成果は国際誌に発表済みであったが(Ohtsuki, Wakano, & Kobayashi, 2017)、30年度は、②の成果を執筆・投稿し、国際誌に受理・掲載された(Kobayashi, Wakano, & Ohtsuki, 2019)。また、③の成果については、内容がまとまり、現在投稿準備中である。理論パート②の研究を通して、進化的に安定な平衡状態のみを考察したのでは、ヒトの著しい技術・知識の蓄積は説明不可能であることが分かった。これは理論パート①と同じ否定的な結果である。しかしながら、文字や紙といった新しい文化伝達の媒体の導入や、狩猟採集から農耕への生業形態の移行など、文化伝達やニッチ構築に関わるパラメータの値に急激な変化があれば、極めて高度な文化水準が一時的に達成されることが明らかになった(Kobayashi et al., 2019)。この発見は、人類が進化的に過渡的な状態にあることが、その急速な文化進化を可能にしているという、これまでの人類進化研究にはない新しい仮説をもたらした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
理論パートに関しては、これまでの研究期間を通して全て完了し、あとは③の成果の執筆を終え、投稿するだけである。一方、実験パートに関しては、実施が遅れている。その理由は、理論パートの実施が予想よりも長い期間を要したこと、また、実験の専門家との議論を通して、当初予定していた実験のセットアップを変更する必要性が明らかになったことである。
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Strategy for Future Research Activity |
理論パートについては、執筆に専念し、③の成果が速やかに国際誌に受理されることを目指す。一方、実験パートについては、新しい設定で実験を実施するための実験用プログラムを構築し、今年度中の実施を目指す。当初の計画では、先行研究で用いられていた仮想的な石器製作の文化進化実験を修正して本研究に活用する予定であった。しかしながら、海外研究者との議論の結果、先行研究の枠組みでは、学習への時間的投資がうまく表現できないため、学習と資源獲得の間の時間的トレードオフがもたらす文化進化への影響を検出するという本研究の目的には適さないことが明らかになった。これは、先行研究では、どのような高度な石器製作技術でも、クリック一つでコピーできるという非現実的な仮定が採用されているからである。実際には、社会学習には一つ一つの製作プロセスを順番に学習していく必要があるため、複雑な技術ほど時間コストが大きくなるが、このような効果を表現できる実験設定でなければ、本研究の目的には適さない。 そこで、この問題を解決するため、現在、先行研究のように石器を形状で表現するのではなく、一連のプロセス(材料の選定、加工方法の選定など)の合成として表現する枠組みを設計している。この新しい枠組みでは、実験のためのプログラムは複雑になるが、社会学習のコストを適切に表現することができる。今後は、国内の考古学者のアドバイスを受けつつ、このプロセスベースの石器製作実験の設計と実装を速やかに進め、年度内の実験実施を目指す。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた主な理由は、研究計画の遅延により、当該年度に実験を実施しなかったことである。未使用分は、次年度において実験を実施する際に謝金として使用する。
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