2017 Fiscal Year Research-status Report
非休眠性個体を高頻度で含む野生コムギ集団の探索―栽培化過程で人は何を選んだか?
Project/Area Number |
16K07559
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Research Institution | Fukui Prefectural University |
Principal Investigator |
大田 正次 福井県立大学, 生物資源学部, 教授 (80176891)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 野生コムギ / 種子休眠性 / 栽培化 / 一粒系コムギ / 二粒系コムギ / 自然集団の多様性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、①栽培化起源地の野生コムギ集団における種子休眠性個体頻度を明らかにし、栽培化に伴う「種子休眠性の消失」の過程を推察すること、②集団内および集団間の遺伝的変異の解析に供するために、野生コムギ集団から抽出した模擬自然集団を育成すること、である。計画2年目の2017年度には、9月と10月にチュクロワ大学で以下の実験を行った。 1. 野生二粒系コムギ(野生チモフェービ系コムギを含む):2014年~2015年に栽培・自殖した11集団450個体から408個体をチュクロワ大学で栽培・自殖し2017年6月に収穫した。これらの個体について、9月に小穂内の着粒数と着粒位置を区別して脱穀、各個体の2粒着いた小穂の第1小花と第2小花の穎果それぞれ25粒の重さを計測、10月26日に室温で播種、6日間発芽数を記録し発芽指数を求めた。今回の結果と2015年の同様の実験の結果から以下の結論と示唆を得た。①野生二粒系コムギ集団には、種子休眠性の程度が遺伝的に異なる個体がさまざまな頻度で含まれている。②小穂内に見られる穎果サイズの二型性と種子休眠性の程度の間には自然集団でも有意な相関がある。③初期の栽培化過程では、種子休眠性の消失は穎果サイズの変化と同時に起こり、自然集団に既存の非休眠性個体が栽培環境下で頻度を増した可能性がある。④自然集団では成育期の環境条件により、種子生産の少ない年には休眠しない種子が増加し、一方、種子生産の多い年には休眠する種子が増加することで集団の個体数を維持している可能性がある。この成果は日本育種学会133回講演会で発表した。 2. 野生一粒系コムギ(ウラルツコムギを含む):自然集団で採集した穂のサンプルから1粒/個体を抽出して2016年~2017年にチュクロワ大学で栽培・自殖した11集団554個体から得た種子を10月に播種、現在チュクロワ大学の圃場で成育中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1. 野生二粒系コムギ(野生チモフェービ系コムギを含む):11集団の評価を計画どおり終了した。2017年度の調査では成育期を通して環境が良好であったため十分な種子量が得られ、小穂当たり着粒数、第1小花と第2小花の穎果サイズ(穎果重)の違いと発芽率についてそれぞれの個体がもつ遺伝的形質を正確に評価できた。また、個体識別した同じ個体を用いた2015年度の調査では、開花結実期の天候が不順であったためその結果の信頼性に問題があると感じていたが、2015年度と2017年度の結果を比較することで自然集団における発芽適応戦略の動態について新しい知見を得ることができた。これは想定外の成果である。 2. 野生一粒系コムギ(ウラルツコムギを含む):11集団554個体をチュクロワ大学で栽培中であり計画どおりに進捗している。 3. 野生コムギの自然集団から抽出した模擬自然集団の育成:野生一粒系、および野生二粒系コムギともに、2018年で自殖を2回以上回繰り返すことになり得られた種子を模擬自然集団として保存する。 4. 種の同定の問題:野生二粒系コムギと野生チモフェービ系コムギ、および、野生一粒系コムギとウラルツコムギの葉の形質による同定を2017年度3月にチュクロワ大学農学部の圃場で試みたが、時期が早すぎて正確な同定ができなかった。2018年5月に出穂直前の個体で再度試みることで正確な同定ができる予定である。毎年の栽培では個体識別して採種しており、種子休眠性についてこれまでに得られた結果および2018年度に得られる結果に同定の結果を反映する予定である。また、模擬自然集団についても個体ごとに種が同定された集団となる。 以上のことから、研究計画は順調に進んでいると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度の2018年度には、本研究の目的である「野生コムギ集団における非休眠性個体頻度の解明」と「野生コムギ集団から抽出した模擬自然集団の育成」を以下のように完成させる。 1.二倍体の野生一粒系コムギには穂の形態では判別が困難な別種ウラルツコムギが、また、四倍体の野生二粒系コムギにも穂の形態が酷似した野生チモフェービ系コムギが存在する。これらの種の分布は重なっており、今回栽培している集団にも両者が混じっている可能性が大きい。チュクロワ大学農学部の実験圃場で栽培中の野生二倍性コムギおよび野生四倍性コムギのすべての個体について、葉面の毛の密度、長さ、柔らかさから、形態的にこれらの種を区別することを5月上旬に試みる。 2.2017年度秋からチュクロワ大学で栽培している野生一粒系コムギ(ウラルツコムギを含む)と野生二粒系コムギ(野生チモフェービコムギを含む)について以下の実験を実施する。 (1) 野生一粒系コムギ:11集団554個体について、DNA解析のための葉のサンプリングを行いチュクロワ大学でDNAを抽出する(チュクロワ大学農学部の共同研究者に委託)。また、個体あたり4穂に袋をかけ自殖し(海外共同研究者に委託)、8月~9月にチュクロワ大学で穎果の形態の調査と発芽試験を行い、各集団の非休眠性個体頻度を明らかにする。また、発芽実験に用いた残り種子を模擬自然集団として保存する。 (2) 野生二粒系コムギ:11集団408個体について、DNA解析のための葉のサンプリングを行いチュクロワ大学でDNAを抽出する(チュクロワ大学農学部の共同研究者に委託)。また、個体あたり2穂に袋をかけて得た自殖種子を模擬自然集団として保存する。 3. 野生二粒系コムギについてこれまでの研究で得られた結果をまとめて学術雑誌に投稿する。野生一粒系コムギについては今年度得られた結果を学会発表する。
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Causes of Carryover |
トルコでの調査に係る費用が不足するため10月に300,000円を前倒し申請したが、宿泊費が予算を下回ったため、17,927円が黒字となった。 最終年度のトルコでの調査費用や成果の学会発表のための旅費の一部として使用する。
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