2017 Fiscal Year Research-status Report
登熟優先度調節系からのアプローチによるイネの高登熟、安定多収栽培の試み
Project/Area Number |
16K07566
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
中村 貞二 東北大学, 農学研究科, 助手 (70155844)
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Project Period (FY) |
2016-10-21 – 2021-03-31
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Keywords | イネ / 穎果 / 登熟 / 品質 / 登熟優先度 / 水不足 |
Outline of Annual Research Achievements |
イネには登熟優先度調節系が存在し、低source/sink比下では優先度が低い弱勢な穎果の内生ABAが低下し、その初期成長が遅延、そして胚乳細胞数の減少と乾物蓄積期の胚乳におけるデンプン合成能力の低下により登熟・品質が悪化することをポット実験により明らかにしてきた。本研究では、ポットではなく圃場レベルで登熟優先度調節が弱く、高登熟、安定多収となるような栽培の構築を目指す。前年度の結果を参考に、圃場におけるイネの登熟優先度調節の強さをスコア化する方法の確立を試みた。また、ポット栽培で内生ABAを高める処理(水不足処理)を行い、登熟優先度調節の強さと登熟・品質を調査した。 登熟優先度調節が強い(ポット実験で判定)「ひとめぼれ」を用い、本学の新圃場で標準栽培した。出穂期に株を間引いて孤立個体を作り出し、これを対照区とした。さらに、寒冷紗による50%遮光区を設けた。出穂後、16日の穂について、前年度に検討した方法で、すなわち籾殻の先端に穎果が達した段階(Stage T)に達していない穎果の比率を求め、その対照区に対する比率を登熟優先度調節の強さを示す指標としてスコア化したが、新圃場の水漏れ、土壌の不均一性などの問題でイネが均一に成長しなかったこと、さらに出穂直後からほぼ1ヶ月間が雨天のため、穎果の成長がすべての区で遅すぎたことから、正確なデータが得られなかった。 水不足処理のポット実験に関しても、夏期の天候不順によりデータが得られなかったので、ファイトトロン栽培のイネ(出穂はH30年1月)で行った。登熟初期から、葉が巻き始めた段階で灌水する水不足処理を10日程度行い、圃場で予定していた方法でスコア化した結果、遮光区において登熟優先度調節が処理によりわずかではあるが弱まり、登熟・品質は良くなる傾向が認められた。今後、水不足処理の程度や長さについては、さらに検討が必要である
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
H29年度の目標の1つは、圃場におけるイネの登熟優先度調節の強さを評価する方法を確立することであった。そのために、前年度に検討した方法で、すなわちStage T(籾殻の先端に穎果が達した段階)に達していない穎果の比率を求め、その対照区(出穂期から孤立個体)に対する比率を登熟優先度調節の強さを示す指標としてスコア化したが、前述したように新圃場の問題や極端な天候不順のために、対照区を含むすべて区のスコアが悪すぎて、正確なデータが得られなかった。同様に、夏期に予定していた、水不足処理(内生ABAを高める処理)のポット実験でも同様な理由で正確なデータが得られなかった。そこで、10月にポットに播種し、ファイトトロンで全期間生育させたイネ(出穂はH30年1月)で水不足処理実験を再度行った。その結果、圃場で予定していた方法でのスコア化が登熟優先度調節の強さを比較するために有効であること、さらに登熟初期からの水不足処理がイネの登熟優先度調節を弱め、日照不足(低source /sink比)による登熟・品質の低下を抑える傾向が見られた。以上より、圃場実験では、正確なデータを得るのに失敗したが、ポット実験により、登熟優先度調節の強さを比較ためのスコア化は有効であること、さらに水不足処理は、登熟向上のための栽培技術となり得る可能性が示されたことから、現在までの進行状況は「やや遅れている」程度と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
H29年度に、圃場におけるイネの登熟優先度調節の強さをスコア化する方法を確立することを試みたが、正確なデータが得られなかったので、もう一度試みる。一般普及品種で登熟優先度が強い「ひとめぼれ」をH29年度と同様に標準栽培を行う。出穂期から30~50%程度の遮光区を設ける。出穂期に周辺の個体を間引いて孤立個体とする区を設け、これを対照区とする。出穂後16日前後(その時の天候によって判断)の穂をサンプルし、H29年度と同様な方法で籾殻の先端に穎果が達した段階(Stage T)に達していない穎果の比率を求め、その対照区に対する比率を登熟優先度の強さを示す指標としスコア化し、登熟優先度調節の強さの判定に有効であることを明らかにする。そして成熟期に収量関係形質(登熟、品質)を調査し、登熟優先度調節の強さとの関係を確認する。 次に、圃場レベルで①一般普及品種を、栽植密度、窒素肥料等により穂重型または穂数型となるように栽培し、弱勢である二次枝梗穎果の比率を変えた場合、②登熟初期から種々の程度、強さの水不足処理(ABAを高める処理)を行った場合の登熟優先度調節の強さをスコア化して評価するとともに、登熟・品質を明らかにし、登熟優先度調節が弱く、高登熟、安定多収となるような種々の栽培を構築し、実証、提唱する。
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Causes of Carryover |
交付決定がH28年10月だったために、当該年度はすでに圃場でのイネ栽培は終了しており、実験はあらかじめ栽培してサンプルしておいたイネを用いて予備的に行った。したがって、実験に直接関わる経費の使用はほとんど無かった。よって、大部分の費用をH29年度に繰り越したが、新しく造成した本学水田の水漏れ、土壌の不均一性などの問題で均一な植物体が得られなかったこと、さらにイネの登熟期に当たる8月はほとんど毎日が雨天であったことから、圃場実験で正確なデータを得ることができず、予定していた登熟調査にかかる費用も未使用となってしまった。 次年度は、本研究の遅れを取り戻すために、規模を拡大して圃場実験を行う。そのための栽培資材、登熟調査に必要な消耗品、さらに大量のデータを扱うためのパソコンを購入する予定である。
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