2018 Fiscal Year Research-status Report
登熟優先度調節系からのアプローチによるイネの高登熟、安定多収栽培の試み
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16K07566
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
中村 貞二 東北大学, 農学研究科, 助手 (70155844)
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Project Period (FY) |
2016-10-21 – 2021-03-31
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Keywords | イネ / 穎果 / 登熟 / 登熟優先度 / 水不足 |
Outline of Annual Research Achievements |
イネには登熟優先度調節系が存在し、低source/sink比下では優先度が低い弱勢な穎果の内生ABAが低下し、その初期成長が遅延、そして胚乳細胞数の減少と胚乳におけるデンプン合成能力の低下により登熟・品質が悪化することをポット実験により明らかにしてきた。本研究では、ポットではなく圃場レベルで穂の登熟優先度調節が弱く、高登熟、安定多収となるような栽培の構築を目指す。 普及品種の「ひとめぼれ」を用い、圃場における登熟優先度調節の強さのスコア化を確立するとともに、栽植密度と幼穂形成期の多窒素追肥により穂の大きさを変化させた場合の登熟優先度調節の強さと登熟の関係を調査した。栽植密度が疎になるほど穂が大きく籾数が増加し2次枝梗籾の割合も増加した。幼穂形成期の多窒素追肥により同様な効果が得られたが、その程度は栽植密度ほど大きくなかった。出穂後16日の穂について、穎果の幅が籾殻の半分に達していない穎果の比率を求めスコア化したところ、穂が大きいほど登熟優先度調節が強いこと、これは主に2次枝梗穎果の初期成長の遅延によることが示された。登熟歩合は2次枝梗籾で低く、穂の大きさと登熟優先度調節の強さとは負の関係となった。以上より、穂が小さい方が登熟優先度調節が弱く、登熟には有利であることが示された。したがって、さらなる多収を得るためには、栽培により穂数型のイネにする必要があるが、倒伏などの危険性が生じてくる。そこで穂が大きくても登熟優先度調節が強くならない方法を開発することが重要となる。そこでポット栽培で内生ABAを高める処理(水不足処理)を行った。登熟初期から土壌のマトリックスポテンシャルがおよそ-25kPaに達した段階で灌水する処理を成熟期まで行った結果、とくに遮光区において登熟優先度調節が処理により弱まり、登熟が良くなる傾向が認められた。今後、水不足処理の程度や長さについて検討が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
H30年度の目標の1つは、圃場におけるイネの登熟優先度調節の強さを評価する方法を確立することであった。そのために、極端な日照不足であった前年度に検討した方法を一部修正し、Stage T(籾殻の先端に穎果が達した段階)ではなく、stage H(穎果の幅が籾殻の半分に達した段階)に達していない穎果の比率を出穂後16日の穂について求めスコア化した結果、登熟優先度調節の強さを表すことができることがわかった。当初の予定では対照区(出穂期から孤立個体)に対する比率を考えたが、孤立個体では穂の大きさに関係なく登熟優先度調節の強さが非常に小さかったので、わざわざ対照区を設ける必要が無いことも示された。初年度(H28)は交付は秋だったために、またH29年度は移転したばかりの水田の縁からの漏水がひどかったために、登熟優先度調節の強さの評価法を確立するのに3年も費やしてしまった。 圃場における栽培方法の違いにより穂の大きさを変化させた場合の登熟優先度調節の強さや登熟に対する効果については概要に記したような結果が得られ、穂が大きくても登熟優先度調節の強さが大きくならず、とくに2次枝梗籾の登熟が悪化しないようにする技術が必要で、本研究の重要なポイントになることが示された。ポット実験の結果から、この栽培技術として登熟初期からの水不足処理が有力である可能性が示された。今年度は圃場においても水不足処理を試みたが、大学移転に伴い移転した圃場の排水対策工事が間に合わなかったことにより、登熟初期に水不足処理を行うことができなかった。以上の理由から、現在までの進行状況は「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
H30年度同様、一般普及品種で登熟優先度が強い品種「ひとめぼれ」を用い、圃場で栽植密度と施肥量(とくに窒素)を変えて栽培し、穂の大きさが異なる群落をつくる。登熟優先度調節の強さをスコア化し、登熟との関係を追試し、H30年と同様、小さな穂の方が登熟に有利であるという結果が得られるか、再確認する。 登熟初期からの水不足処理は、登熟優先度調節の強さを弱め、登熟向上に有効であることがH30年度のポット実験で示され、本研究の重要なポイントと考えられる。そこで、栽培技術への導入のために登熟初期からの水不足処理に着目し、その程度、処理期間に関するポット実験を「ひとめぼれ」を用いてファイトトロン内で行い、登熟優先度調節の強さと登熟形質を調査し、登熟向上効果の高い処理方法を探る。 排水対策工事が完了した水田を用い、圃場レベルで登熟初期からの水不足処理(田干し)を行い、登熟優先度調節の強さをスコア化するとともに、登熟との関係を調査する。そして、登熟優先度調節が弱く、高登熟、安定多収となるような栽植密度、施肥量、田干しに関する栽培法を構築し、実証、提唱する。
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Causes of Carryover |
ポット実験の結果から、登熟初期からの水不足処理は本研究の重要なポイントになると予想されたために、当初は圃場においても、同様な実験を行うことを考えたが、圃場の中干しなどを通しての観察結果から、やはり圃場の排水工事が間に合わなかったために、今年度は圃場での水不足処理は不可能で、排水工事が完了する次年度に実施せざるを得なかった。そこで、圃場における土壌のマトリックスポテンシャルを測定するために必要な土壌水分センサー、土壌温度センサー、データーロガーの購入を次年度に変更したのが、次年度使用が生じた主な理由である。次年度(H31年度)は、これら土壌のマトリックスポテンシャル測定に必要な機器、大量のデータを扱うためのパソコン、さらに栽培資材などを購入する予定である。
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