2016 Fiscal Year Research-status Report
転換畑ラッカセイの異形的根粒形成のエチレンによる制御機序の解析
Project/Area Number |
16K07579
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
大門 弘幸 龍谷大学, 農学部, 教授 (50236783)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 根粒形成 / 根系発育 / ラッカセイ / エチレン / 地力窒素 / 水田転換畑 / 還元土壌 / 作物生理生態学 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本では,食料自給率向上や地域農業の活性化の視点から多様な農作物の転換畑への導入が重要となっている.本研究では,ラッカセイを沖積土の水田転換畑に導入する可能性を探るために,過剰水分に対する根の発育と根粒形成の応答反応を明らかにすることを目的に研究を遂行している.初年目は,転換畑では単位根長あたりの根粒数が多く,分枝根の分化と根粒形成との間に競争的関係が生じるような現象(異形性)を確認し,次年度以降に予定している異形性の機序解析のための基礎的知見を得ることができた. 大津市および丹波市の転換畑圃場において,2016年6月初旬に品種「おおまさり」と「千葉半立」を播種または定植し,茎葉部の生育,根系発育,根粒形成を経時的に調査し,10月中旬から適宜収穫して子実収量を調査した.いずれの圃場でも,一般に火山灰土壌で栽培した場合と比較して根粒が密に着生すること,養分吸収に機能する細根の発生が少ない傾向が認められた.また,両品種ともに多くの個体において,地際部には数本の不定根が発生し,そこに根粒が形成された.さらに地際部に位置する分枝においては基部から3-4 cm程度の箇所まで茎粒が認められたが,これは不定根原基に根粒菌が感染したものと推察された.根粒の密生程度には品種間で差異があることが示唆されたが,個体間変動が大きく再検討を要する.総根長は千葉半立に比べておおまさりで大きい値を示した.また,おおまさりでは茎葉部の生育量が著しく大きく,過繁茂の様相を呈した.子実収量は,おおまさりで約300 g/m2と比較的多収であった. さらに,湛水土壌における地力窒素の発現と根茎発育の様態との関係について,両品種を供試して人工気象室内で試験を行ったところ,湛水土壌で生成されるアンモニウム態窒素が単位根長あたりの根粒数を増加させる可能性は低いと考えられ,他の要因から機序を探る必要が示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
水田転換畑におけるラッカセイの根粒形成の異形性について,その事象の明確な記述と機序の解析を目的に本研究を開始した.初年目は,これまでの予備実験の結果をもとにさらなる追試験によって,灰色低地土圃場における過剰水分に対する根の発育と根粒形成の応答反応の一部をラッカセイ2品種について明らかにすることができた.品種間の比較は3年目以降に行う予定ではあるが,実際に西南暖地の転換畑圃場への導入が期待される供試2品種については,単位根長あたりの根粒が著しく多く,分枝根の分化と根粒形成との間に競争的関係が生じる異形性を確認することができた.このことは,次年度以降に予定している異形性の機序解析のための基礎的知見として重要であり,立案通り概ね研究が進展していることを示す成果であると考えている. 初年目には,機序解析の予備実験として,転換畑土壌の還元化で生じる有機物由来の外生エチレンと過剰水分で生じる植物の内生エチレンのそれぞれの定量を試み,特に外生エチレン定量の手法を確立することができた.したがって,次年度以降は,本手法を用いていくつかの条件を設定することで,転換畑圃場における外生エチレンの発生について量的に評価し,あわせて,ラッカセイ根茎発育と根粒着生への影響を明らかにできるであろう.また,現地圃場での調査に加えて,地下水位が調節可能な大型ポットを用いたモデル試験については,予備的な遂行にとどまり,この手法を用いた解析については,やや計画が遅れたものの,人工気象室での無機態窒素の動態についての実験を優先させたことで,エチレンに焦点を絞った研究が進捗すると考えている.これらの初年目に得られた知見を基盤にして,次年度以降は,異形的な根粒形成と莢収量および収穫残渣の窒素含量との関係にまで言及して,西南暖地の転換畑へラッカセイの導入を試みる際の学術的知見を集積できると考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の研究結果から,ラッカセイ2品種の根系発育と根粒形成は,沖積土壌(灰色低地土)の水田転換畑においてしばしば見られる過剰土壌水分により影響を受けることを実際の圃場試験において明らかにした.その機序について,根系発育や根粒形成に著しい影響を及ぼす無機態窒素の生成状況から説明できるかについて人工気象室内で検証した.すなわち,還元土壌で発現するアンモニウム態窒素が根長を制限し,かつ,好気的条件で生成される硝酸態窒素が生成されにくい条件下では根粒数が増加することを予想して研究を進めたが十分な知見は得られなかった.次年度は,この点についてさらに詳細に検討を進める予定である. 一方,根系発育や根粒形成は,嫌気的条件下で生成される内生エチレンや土壌由来の外生エチレンによって影響される可能性も大きい.そこでエチレンが関与する機序について検証を進める.すなわち,過剰水分条件下での内生エチレンと外生エチレンの発生量を経時的に定量し,また,双方が存在する条件下において,それぞれのエチレンが根系発育と根粒形成に及ぼす影響を明らかにする.また,エチレン生合成を促進するIAAが,一方ではクラッキング感染する根粒菌の細胞間隙への侵入,蓄積を容易にする可能性がある.このこととエチレンによる根の伸長抑制による分枝根の分化が,外生エチレンと内生エチレンの存在下で根粒菌の皮層細胞への感染頻度を高め,過剰水分条件での根粒数を増大するという仮説を立ててそれらを検証する. また,初年目の圃場試験で,「おおまさり」の茎葉部の著しい生育が十分な光合成同化産物を生産し,炭素源として根粒形成に影響を及ぼすことで多くの根粒を着生するという視点からも検証を進める.具体的には,茎葉の部分的な除去による同化産物の制限が,好気的条件で一時的に地力が高い状態になる転換畑において,根粒着生の様態にいかに影響を及ぼすかを明らかにする.
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