2017 Fiscal Year Research-status Report
カット青果物の酵素的褐変に及ぼす微生物の関与とその機構
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16K07606
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
泉 秀実 近畿大学, 生物理工学部, 教授 (50168275)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 酵素的褐変 / ポリフェノールオキシダーゼ(PPO) / フェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL) / ペルオキシダーゼ(POD) / 細菌数 / 細菌種 / Psedomonas fluorescens |
Outline of Annual Research Achievements |
カット青果物の酵素的褐変は、Phenylalanine-ammonia lyase(PAL)、Polyphenol oxidase(PPO)あるいはPeroxidase(POD)の活性が、切断(傷害)により増加することで引き起こされる。本研究では、青果物に付着、増殖する微生物の観点から酵素的褐変現象を捉え、特定の微生物が、褐変関連酵素の生成を介して褐変を誘導するスペキュレーションを立てている。 昨年度までに、カットジャガイモ、カットリンゴおよびカットレタスでは、非褐変部位よりも褐変部位において、PPO活性が高く、一般生菌数の多い褐変部位にのみ存在する細菌があることを見出した。本年度は、ジャガイモの褐変部位から検出のPsedomonas fluorescensおよびリンゴの褐変部位から検出のHerbaspirillum huttienseをそれぞれカットジャガイモおよびカットリンゴに接種(103および106 CFU/ml)して、PAL、PPO、PODの活性およびその反応物質であるポリフェノール、リグニン含量を分析し、褐変程度を観察した。また、ジャガイモにP. fluorescensを接種後に活性増大したPPOの酵素特性とそのタンパク質をコードする遺伝子発現の解析を行った。 結果として、カットリンゴにH. huttienseを103および106 CFU/ml接種した場合は、褐変程度、各酵素活性および各関連物質に影響を及ぼさなかったが、カットジャガイモでは、P. fluorescensを103 CFU/ml接種した場合に、PPO活性の増加が見られ、StuPPOの遺伝子発現量が増大することが認められた。本PPOのpH依存性も含めて判断すると、活性増加したのは、菌体PPOよりもジャガイモPPOであることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は、数種カット野菜およびカット果実を対象に、褐変部位と非褐変部位における酵素(PAL、PPO、POD)活性、褐変関連物質(ポリフェノール、リグニン)含量および微生物叢(細菌数、細菌種)の比較を行い、褐変に関わる酵素ならびに褐変関連物質に影響を及ぼす微生物(Psedomonas fluorescens、Pseudomonas monteilii、Curtobacterium albidum、Herbaspirillum huttiense)を特定した。 続いて本年度は、カットジャガイモおよびカットリンゴを対象に、初年度に選抜したこれらの細菌を接種することで、褐変の誘導の有無、褐変関連酵素(PAL、PPO、POD)活性および褐変関連物質(ポリフェノール、リグニン)含量を測定して、特定の微生物と褐変との関連を調査した。その結果、カットジャガイモでは、P. fluorescensを接種した場合に、PALとPOD活性およびポリフェノールとリグニン含量には大きな影響が見られなかったが、PPO活性が増大して、褐変の進行が進むことが確認された。P. fluorescens菌体の抽出液もPPO活性を示したが、本酵素特性についてpHの依存性を中心に調べたところ、ジャガイモのpH6付近では活性は示さず、P. fluorescens接種後に増大したPPOは、ジャガイモPPO(StuPPO)の遺伝子発現量の増大によることが示唆された。 以上から、特定の微生物とカット青果物の褐変反応との関連を調査していく上で、P. fluorescensとカットジャガイモが最適な研究材料であると判断し、次年度以降の褐変反応のメカニズムの追求と褐変抑制の研究に繋げるための準備を整えることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度までに、カットジャガイモの褐変部位からのみ検出されたP. fluorescensが、カットジャガイモの酵素的褐変に関与していることが明らかとなった。P. fluorescens菌体自体もPPOを産生するが、菌接種によって植物(ジャガイモ)PPOの遺伝子発現量が増大し、酵素活性を高めて褐変を誘導していることが示唆された。 次年度は、接種したP. fluorescensが誘導するカットジャガイモの褐変現象のメカニズムの追求と、P. fluorescensをカットジャガイモから除去した場合の褐変抑制の効果について検証する。前者の研究では、カットジャガイモの褐変現象は、P. fluorescensの増殖がジャガイモPPOの産生と活性を直接的に刺激した結果なのか、あるいは、植物による微生物の侵入・増殖に対する防御作用なのかについて、P. fluorescens以外の細菌のジャガイモへの接種あるいはP. fluorescensのカットジャガイモ以外のカット青果物への接種も対象として、植物のストレスに対する防御誘導のシグナル因子としても重要な働きをしている過酸化水素の消長も含めて検討する。後者については、本研究室で、これまでに確立してきたカット野菜に付着の細菌の除菌方法(酸性電解水などの化学的殺菌および熱水処理などの物理的殺菌)を利用して、カットジャガイモの褐変反応(表面色、PPO活性、ポリフェノール含量)を測定して、P. fluorescensと褐変反応との関連性および褐変抑制の技術について検討する。
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Causes of Carryover |
本年度は、研究材料をジャガイモおよびリンゴに絞り、研究対象を少なくしたが、期待した研究成果が十分に得らたため、予定していた研究費よりも少ない予算で研究遂行した。 次年度は、本年度までの研究結果を基に、接種したP. fluorescensが誘導するカットジャガイモの褐変現象のメカニズムの追求と、P. fluorescensをカットジャガイモから除去した場合の褐変抑制の効果について検証する。このために、微生物解析に加えて、細菌が産生する物質と酵素の生化学的解析および分子学的解析を実施するので、その関連薬品(消耗品)の購入およびその研究遂行のための研究補助員の謝金に、次年度使用額および当該年度移行額を充てる。また、積極的に、研究成果発表(アメリカ園芸学会)、成果論文投稿(Postharvest Biology and Technology)も実施する。
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Research Products
(3 results)