2016 Fiscal Year Research-status Report
イネ白葉枯病菌の病原性関連遺伝子群hrpにおける糖依存的な新規発現制御機構の解明
Project/Area Number |
16K07621
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Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
津下 誠治 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 准教授 (10254319)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | イネ白葉枯病菌 / hrp / III型分泌装置 / 遺伝子発現 |
Outline of Annual Research Achievements |
イネ白葉枯病菌の病原性には、hrp遺伝子群の感染特異的な発現とその産物によるIII型タンパク質分泌装置の構築、およびそれを介した機能性タンパク質群の植物細胞内への分泌が必須である。申請者は既に、キシロース存在下、あるいは負の転写制御因子であるXylRの欠損条件下でHrpXの蓄積増加とそれに伴うhrp遺伝子群の発現増加が見られることを見出してきた。本結果は、HrpXの分解制御に関わる未知プロテアーゼ(A)、およびXylRにその発現を負に制御され、未知プロテアーゼの発現(あるいは活性)抑制に関わる未知因子(B)の存在を示唆している。このような背景をもと、本細菌におけるhrp発現制御ネットワーク、さらには感染過程における「糖」の重要性、とくに糖依存的なHrpXの量的制御機構の解明を目的として開始した本申請課題において、これまでに以下の知見を得た。 (1) XylRはhrp遺伝子群の発現のほか、キシロース代謝に関わる遺伝子群の負の制御因子として機能する。 (2) XylRは、被制御遺伝子上流のモチーフ配列に結合し、その遺伝子の発現を抑制する。またキシロースの代謝産物であるキシルロース存在下ではXylRのモチーフ配列からの解離により、その下流の遺伝子発現が誘導される。 (3) ゲノム解析の結果、本細菌にはXylR結合モチーフを上流にもつ遺伝子が6つ存在し、それらはすべてXylRにより発現制御されることを明らかにした。これらの中には、XylRにより直接制御され、HrpXの量的制御に関わる上記未知因子(B)が含まれると予想される。 (4) トランスクリプトーム解析の結果、XylR存在下で発現誘導され、その産物が細胞質内に局在すると予想されるプロテアーゼ遺伝子が8つ存在することを明らかにした。これらの中には、HrpXの分解(蓄積抑制)に関わる上記未知プロテアーゼ(A)が含まれることも予想される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1) 申請時に計画していたXylR(申請書にはSalRと表記。その機能および既報の研究によりXylRと改名)の機能解析の結果、被制御遺伝子上流領域への結合、およびそのモチーフ配列とDNAからの解離に関わるリガンドの同定を行うことができた。また、XylRがhrpの発現制御だけでなく、キシロース代謝に関わる遺伝子群の発現制御に関わることを明らかにすることができた。 (2) XylR制御下にあり、HrpXの量的制御に関わると予想されるプロテアーゼについて、その同定には未だ至っていないが、トランスクリプトーム解析の結果、その候補として8つのプロテアーゼ遺伝子を見出すことができた。 (3) XylRに直接制御され、未知プロテアーゼの発現あるいはその活性を抑制することが予想される未知因子について、ゲノム情報からのモチーフ検索、およびトランスクリプトーム解析の結果、その候補を6つ見出すことができた。また、並行して行ったトランスポゾンタギング法では、約2500株の変異体の解析により、hrpの発現制御に関わる遺伝子候補を15個得た。これらについてはXylR制御下には無いことが明らかとなったが、白葉枯病菌のhrp遺伝子群の発現制御に関わる新規因子として今後併せて解析を進める予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
XylRの制御下にありhrp制御タンパク質HrpXの量的制御に関わる「未知因子」および「未知プロテアーゼ」について、これまでに得た複数の候補の中から目的とする「因子」ならびに「プロテアーゼ」を同定し、その機能解明を行う。また、「未知因子」による「未知プロテアーゼ」の発現/活性制御について調べる。ここで、XylRと「未知因子」、あるいは「未知因子」と「未知プロテアーゼ」の間に「第2の未知因子」の存在が予想されることになる可能性もあるが、その場合は、その同定を行う。 代謝マップによると白葉枯病菌におけるキシルロース生成には、キシロースからの生成ならびに、リブロース5リン酸からキシルロース5リン酸を介して生成される2つの経路が存在する。hrp遺伝子群の発現におけるキシルロースの重要性をさらに明らかにするため、これらの2つの経路のそれぞれ、あるいは両方を破壊した変異株を作出し、hrp遺伝子群発現への影響を調べる。また、イネはその細胞壁にキシロースを成分とするキシランを多量に含み、それが本細菌のhrp遺伝子群の発現制御に関わるだけでなく、栄養源となっていることも予想される。そこで、ここで得られた変異株のイネ葉内でのhrp遺伝子発現だけでなく、その増殖についても調べ、本細菌のイネに対する病原性におけるキシロースの重要性について明らかにする。 Xanthomonas属細菌の宿主は単子葉・双子葉植物の多岐にわたる。XylRを介したHrpXの量的制御はキシロース(キシラン)を多く含むイネを宿主とする白葉枯病菌に特異的であることも考えられる。そこで、本経路のhrp発現における重要性を、アブラナ科あるいはナス科植物を宿主とする他種Xanthomonas属細菌を用いて調べることにより、その普遍性/特異性について検討する。
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