2016 Fiscal Year Research-status Report
脱皮ホルモン受容体制御をめざした分子設計基盤の整備
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16K07625
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中川 好秋 京都大学, 農学研究科, 准教授 (80155689)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | in silicoスクリーニング / 脱皮ホルモン / エクダイソン / ドッキングシミュレーション / ジアシルヒドラジン / 分子動力学 / MM-PBSA / 受容体タンパク質 |
Outline of Annual Research Achievements |
昆虫の脱皮ホルモン受容体のリガンド結合部位に結合する非ステロイド型化合物を,計算機シミュレーションの手法を用いて探索することを目的としている.これまでは,受容体を剛体と考えて,リガンド結合部位に結合する化合物の探索を行ってきたが,受容体タンパク質を剛体として取り扱うドッキング実験では,精度良く化合物の設計をすることは困難である.本研究では,リガンド-受容体相互作用解明に分子動力学(Molecular dynamics: MD)の手法を用いて,タンパク質の動的構造と溶媒分子(水)との関与を考慮することで,リガンド-受容体相互作用をより正確に表現し,合理的な分子設計を行うことを目的とした.具体的にはMDを利用した受容体-リガンド結合親和性評価手法のひとつであるMM-PB/SA法(Molecular Mechanics - Poisson Boltzmann / Surface Area method)を用いて,あるリガンド分子の目的受容体に対する親和性を計算し,新規化合物探索あるいはリード最適化の指針とする.また,このようなリガンドデザイン手法は合成研究者が容易に行えることが重要であると考え,本研究では計算コストを低く抑えることも課題としている. 具体的には,このMDおよびMM-PB/SAの手法を応用して,昆虫のステロイドホルモン受容体である脱皮ホルモン受容体および植物のステロイドホルモン受容体に対するリガンド分子の探索を行っている.脱皮ホルモン類に関しては,自由エネルギーと受容体結合親和性との間に良好な関係を導き,分子設計にとって有効な手段となることを示した.植物のステロイドホルモン受容体に結合する非天然型リガンド分子の設計にも成功している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
受容体タンパク質構造には,ヨトウガSpodoptera frugiperdaの脱皮ホルモン受容体のX線結晶構造を、また,検証用化合物として活性既知の脱皮ホルモンアゴニスト40化合物を用いて、分子動力学(MD)とMM-PBSA法による受容体-リガンド結合親和性評価系を構築した。ドッキングシミュレーションを用いて得られた各受容体-リガンド複合体に対して明溶媒(Explicit water)中で2.5nsのMDシミュレーションを行った。この後半1.5nsにおいて複合体構造のサンプリングを行い、MM-PBSA法によって結合自由エネルギーを計算した。ただし結合に伴い損失するリガンドのコンフォメーション自由エネルギーはFREEFORM(Open Eye社)による計算によって補正した。この結果、ジアシルヒドラジンに代表される種々の脱皮ホルモンアゴニストの受容体への結合自由エネルギーは、既に実験によって求めている結合親和性との間に良好な相関関係を示すことが明らかになった。さらに、この受容体-リガンド結合親和性評価系を用いて大規模化合物データベースからコンピュータによる薬物スクリーニングを行った。具体的にはナミキ商事に提供する500万化合物のデータベースを、一次スクリーニングとしてドッキングスクリーニングを行って5000化合物を選抜し、二次スクリーニングとして前述のMM-PBSA法を用いた評価系によって候補化合物を20化合物程度まで絞り込んだ。現在これらの化合物を合成および発注している。
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Strategy for Future Research Activity |
スクリンーニングの結果得られた候補化合物を合成,あるいは購入し,それらの活性評価を行う。この結果、計算値と実験値が大幅に乖離した化合物が存在する場合には、機械学習の手法を用いてその原因となっているリガンド-受容体間相互作用を探索し、評価系の修正を行う。具体的にはMM-PBSAはその原理から受容体の残基ごとに相互作用の寄与を分解することが可能であるので、このリガンド-受容体相互作用行列を解析することによって相互作用を過剰評価あるいは過小評価しやすい残基が解明できると考えられる。 構造展開が容易な活性化合物が得られた場合は続けてリード最適化を行う。この場合にもMM-PBSA法を用いた評価系を構造展開の指針とする予定である。 また、これまではヨウトウムシSpdoptera frugiperdaの脱皮ホルモン受容体構造のみを用いて脱皮ホルモンアゴニストの探索およびデザインを行ってきたが、ホモロジーモデリングの手法を用いて異なる昆虫種の脱皮ホルモン受容体構造を構築する。新たに構築した受容体に対して,同様の手法を適用し、薬物スクリーニングを行って,昆虫種特異的な脱皮ホルモンアゴニストを探索およびデザインを行う予定である。
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Research Products
(7 results)