2016 Fiscal Year Research-status Report
食塩によって構造変化する耐塩性グルタミナーゼの耐塩化機構の解明
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16K07677
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
吉宗 一晃 日本大学, 生産工学部, 准教授 (50325700)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 耐塩性 / 立体構造解析 / グルタミナーゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
Micrococcus luteus由来耐塩性グルタミナーゼ(Mglu)の立体構造に対するNaCl濃度への影響、その耐塩性に対するpHの影響及び、その耐塩性に対するイオン種の影響について調べた。Mgluは、4M NaClを添加することでSalt loopと名付けた242から248番目のアミノ酸残基からなる領域の主鎖レベルの構造変化を起こす。この構造変化の濃度依存性について調べるために、異なるNaCl濃度におけるMgluの結晶化を試みた。結晶化に際して、異なるNaCl濃度では沈殿剤などの結晶化条件を変える必要があった。このため2M NaCl存在下で、改めて結晶化スクリーニングを行うことによって、より濃度の低い2M NaCl存在下で結晶が得られ、その立体構造を明らかにした。この結果、2M NaCl存在下でのSalt loopの構造はNaCl非存在下の立体構造ではなく、4M NaCl存在下のものに近いことを明らかにした。Mgluの耐塩性に対するpHの影響についても明らかにした。MgluはpH8.5のアルカリ条件に至適pHを持つ。pH7におけるMgluの耐塩性を調べた所、アルカリ条件(pH8.5)での場合と比較して、その耐塩性が著しく低下することを明らかにした。Mgluの耐塩性に対するイオン種の影響を調べるためにLiCl及びNaNO3による活性への影響を調べた。これらの塩による影響はpH9.0においてNaClの場合とほぼ変わらなかった。しかしながら、pH7.0においてNaClの場合と比較してNaNO3は高い阻害効果を持つことが分かった。LiClの阻害効果はpH7.0においてもNaClの場合とほとんど同じであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
耐塩性酵素Mgluは4M NaCl存在下でも活性を有している。一方で、Bacillus subtilis由来及びEscherichia coli由来グルタミナーゼは一般の酵素と同じ食塩感受性酵素であり、1M NaCl添加により失活する。このことから1M 程度のNaCl濃度においても酵素は著しい影響を受けることが予想される。Mgluの構造が2M NaClにおいて構造変化しているという本研究の結果から、Mgluはこのような低いNaCl濃度においても、その活性を維持するためにSalt loopを構造変化させていることも考えられる。また2MNaCl存在下でのMgluの結晶化条件が明らかになったことで、2M NaCl存在下での様々な条件における結晶化が容易になり、今後の実験が加速される。Mgluの耐塩性のpH依存性を調べた結果から、Mgluの耐塩性はpH7.0で著しく低下することが示された。至適pHとは異なる条件において、Mgluの耐塩化のための構造変化が制限されている可能性もある。いずれにせよこの結果に基づいてMgluの耐塩化機構を明らかにできる可能性が考えられる。さらにMgluの耐塩性に対するイオン種の影響を調べた実験において、pH7.0においてNaNO3が、NaClやLiClの場合よりもMgluの活性を低下させることが分かった。至適pH付近においてMgluの活性はNaNO3の影響をほとんど受けないことから、pH7.0で誘導される構造変化が、Mgluの耐塩性に影響する可能性も考えられる。これらの実験結果から、Mgluの構造と機能に関する知見が得られた。これらのことから、本研究の進捗状況は予定通りといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
Mgluの2M NaCl存在下でのSalt loopの構造は、NaCl非存在下の立体構造のものではなく、4M NaCl存在下のものに類似していた。このためSalt loopの構造変化が起こるNaCl濃度は2Mよりも低いことが分かった。構造変化を起こすNaClの最低濃度を明らかにするために、1M NaClでのMgluの結晶化を行い、その構造解析を試みる。この濃度のNaCl存在下での立体構造について、特にSalt loopの構造を、NaCl非存在下もしくは4M NaCl存在下のものと比較する。最終的には、NaCl非存在下のSalt loopの構造と4M NaCl存在下での構造に対応した電子密度の占有率が50%ずつとなるNaCl濃度を決定する。 Mgluの耐塩性はpH7.0において著しく低下した。これまでに立体構造を明らかにしたMgluの結晶化条件はpH7.0もしくは7.5であった。これまでは、耐塩性の見られないpHでMgluの構造を解析し、その機能は耐塩性を有するpH8.5で評価していることになり、齟齬が生じている可能性もある。このため、pH8.5での立体構造解析のために、この条件における結晶化を試みる。またpH7.0においてNaNO3はNaClやLiClよりもMgluの活性に大きな影響を与えたことから、硝酸イオンが塩化物イオンよりも相対的にMgluの活性に影響を与えている。硝酸イオンのpH7.0での阻害形式を明らかにするために、硝酸イオン存在下での結晶化条件の検討を行い、その立体構造解析を試みる。さらに部位特異的変異の導入によって、Salt loopが構造変化しない変異型Mgluを作製する。Salt loopおよびその近傍のアミノ酸残基との間にジスルフィド結合が形成されるようにシステイン残基に置換した変異型Mgluを作製する。
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