2017 Fiscal Year Research-status Report
食塩によって構造変化する耐塩性グルタミナーゼの耐塩化機構の解明
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16K07677
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
吉宗 一晃 日本大学, 生産工学部, 准教授 (50325700)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 耐塩化機構 / グルタミナーゼ / 結晶構造解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
海洋性細菌Micrococcus luteus K-3株由来グルタミナーゼ(Mglu)は4M NaCl存在下でもほとんど失活しない耐塩性酵素である。これまでにMgluの立体構造解析の結果から、2.2 M 以上のNaCl添加によって活性中心残基近傍の構造が変化することが分かっている。一方、Mgluと同様の活性中心構造を持ち、1M NaCl添加によりほぼ失活するBacillus subtilis由来グルタミナーゼ(Bglu)の立体構造はNaCl添加による大きな構造変化が認められなかった。これらのことからNaCl濃度に応じた構造変化がMgluの耐塩化機構の一つであることも考えられる。本研究ではMgluの食塩添加による構造変化とその耐塩性との関係を明らかにする。 リン酸緩衝液(KPB)とHEPESにおけるMgluの活性を比較した結果、KPBでの活性が約90%阻害されることが分かった。この阻害の程度はNaCl濃度によっても変化し、NaCl濃度が1.8 MまではNaCl添加と共に徐々にリン酸に対する感受性は低下するが、2 Mより高濃度の条件下ではMgluに対する阻害の程度は相対的に高くなることが分かった。KPBを緩衝液に用いて各NaCl濃度における動力学的パラメータを測定したところ、2.2Mより高濃度のNaCl存在下で基質グルタミンに対するKmが急激に低下することが分かった。Mgluは2M NaCl添加によって構造変化することが明らかとなっていることから、NaClが2 M以上の条件ではMgluの構造変化により活性中心のリン酸イオンへの親和性が高まり阻害の程度が大きくなることが考えられた。これまでNaCl添加によるMgluの構造変化がその機能に与える影響について不明であったが、リン酸イオン存在下における活性を調べることでMgluの構造変化が機能に与える影響を調べることができるようになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Mgluの活性中心近傍のSalt loopと名付けた領域は2.2 M NaClの添加によって構造変化する。これまでNaCl添加によるMgluの構造変化によるその機能に対する影響については不明であった。これはMgluが構造変化する2.2 M以上のNaCl存在下でもその機能が大きく変化することを見いだせなかったためである。しかしながら今回の実験の結果、この構造変化をおこすNaCl濃度において、リン酸イオンによる阻害の程度が大きく異なることが分かった。このリン酸による阻害を様々なNaCl濃度において調べることでMgluの構造変化が機能に与える影響を調べることができるようになった。 今回の結果、NaCl濃度に応じてリン酸イオンに対する阻害の程度が変化することが分かった。リン酸イオン(0.1 M)はMgluの活性を90%阻害するが、様々なNaCl濃度でリン酸イオンの影響を調べた所、NaCl濃度が0.4 M以上になると活性が部分的に回復した。このことから活性中心に結合しその活性を阻害していたリン酸イオンが塩化物イオンに置換されたことも考えられた。さらに2M NaCl以上の条件ではリン酸イオンによる阻害が再び大きくなった。このことから構造変化により再びリン酸イオンとの親和性が高くなり、その阻害が大きくなったことも考えられた。Mgluと基質グルタミンの負電荷の部分が相互作用する領域にリン酸イオンが結合し阻害していると仮定すると、Mgluの構造変化による機能の変化がリン酸イオンに対する感受性の変化という形で観察できることが示唆された。 またリン酸イオン存在下で各NaCl濃度における動力学的パラメータを測定したところ、2.2 M以上のNaCl存在下で基質グルタミンに対するKmが急激に低下することが分かった。このことからリン酸イオン存在下でもMgluは構造変化することが考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
今回の結果からMgluの構造変化は特にリン酸イオンへの感受性に影響を与えることが示唆されたが、リン酸存在下における構造変化を確認する必要がある。またMgluのリン酸イオンによる阻害を立体構造的に明らかにするために、リン酸イオン存在下でのMgluの結晶構造解析を試みる。リン酸イオン存在下でのみ活性中心に大きな電子密度が観測されれば、リン酸イオンによる阻害様式を示唆することができる。この構造が得られれば、2 M以上のNaCl存在下でリン酸との複合体の構造解析も試み、構造変化前後におけるリン酸による阻害形式の変化も観測する予定である。 NaCl添加によるMgluの構造変化とその耐塩性との関係をより明確にするために、構造変化しない変異型Mgluの作成が必要である。NaCl添加後に新たに形成される水素結合に関係するアスパラギン酸残基(Asp244)をアラニンに置換する部位特異的変異の導入を試みている。しかしながらM. luteusゲノムのGC含量が高くMglu遺伝子のGC含量は85%程度であり、部位特異的変異の導入が非常に難しいという問題がある。今後も引き続き構造変化しない変異型Mgluの作製を進めると共に、部位特異的変異導入を容易にするためにGC含量を低くしたMglu遺伝子の作製を試みる。大量生産した変異酵素を精製後に、その耐塩性とリン酸イオンに対する阻害を調べる。さらに2M NaCl添加による構造変化の有無を立体構造解析により、明らかにする予定である。
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