2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K07683
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
木村 啓太郎 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 食品研究部門, ユニット長 (20353980)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | insertion sequence / Bacillus subtilis / transposase / trasposition frequency |
Outline of Annual Research Achievements |
挿入配列(IS)による細菌ゲノムの多様性獲得メカニズムとその制御機構を解明するためには、IS転移制御の評価系構築が重要である。昨年度に試みたレポーター遺伝子法(IS4Bsu1の両末端繰り返し配列とLacZ遺伝子あるいはGFP遺伝子の融合)の検出感度は低く、IS転移頻度を定量的に評価することができなかった。そこで、今年度はAkashiらによって開発された新しいIS転移検出法(Jumping CAT法、Akashi, Genes and Genetic Systems, 2017)を用いた研究を行った。Jumping CAT法ではレポーター遺伝子としてクロラムフェニコール耐性遺伝子(cat)が使用されているため、検出感度を大幅に向上させることが可能であった。実際、納豆菌ゲノムに組み込んだcat遺伝子が保存的に(コピー&ペースト)転移し、cat遺伝子が多コピー化したことをサザンハイブリダイゼーション法で確認できた。 一方、大腸菌でみつかったIS 転移を促すタンパク質因子Iee(insertion sequence excision enhancer) の納豆菌ホモログに関する研究を進めるため、納豆菌Ieeホモログ遺伝子(locus tag, BSNT_10618)の破壊株を作成した。Jumping CAT法でIS転移頻度を測定したところ、予想に反して、むしろ転移頻度は大幅に上昇した。BSNT_10618遺伝子破壊株のIS転移頻度が高くなったことは、BSNT_10618がIeeと同様に特定のDNA配列に結合する能力を持ちながらISのゲノムからの切出しを抑制している可能性を示唆し、BSNT_10618遺伝子産物のエキスヌクレアーゼ活性の有無やDNA結合の際のトランスポゼースとの競合が今後の検討課題として浮上した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
納豆菌ゲノム上で保存的複製を行うISの転移頻度を定量的に測定する評価系(Jumping CAT法)を構築した。Jumping CAT法では、発現調節領域を有しない(プロモーター無)クロラムフェニコール耐性遺伝子(cat)が転移により発現可能となることを利用する。納豆菌Ieeホモログ遺伝子(locus tag, BSNT_10618)の破壊株で観察された転移頻度は約10E-7(クロラムフェニコール耐性細胞数/総細胞数)であった。cat遺伝子が転移先で発現するためには、ゲノム内の構成的に転写される部位に正しい向きで挿入される必要がある。ゆえに、実際の転移頻度はこの値よりも高いと考えられた。加えて、クロラムフェニコール耐性株の中にIS4Bsu1とIS256Bsu1の両方のコピー数が増えていた株が容易に見つかることから、納豆菌BSNT_10618遺伝子は複数種ISの転移制御に関与していることが示唆された。相同性は低いもののBSNT_10618遺伝子はuvrB遺伝子とアミノ酸配列が似ている(ただし、BSNT_10618遺伝子のC末側にはuvrBには存在しないドメインがある)。uvrB遺伝子破壊株はUV感受性が高くなることが報告されている。そこで、BSNT_10618破壊株のUV感受性を調べたところ、野性株と比較してUV感受性に有意な差は認められなかった。大腸菌IeeおよびuvrBはエキソヌクレアーゼ活性を有し、それぞれISのゲノムからの切り出し、UV損傷したDNAの修復を担う。予想に反してBSNT_10618遺伝子破壊株のIS転移頻度が高くなったことは、BSNT_10618がIeeやuvrBと同様に特定のDNA配列に結合する能力を持ちISのゲノムからの切出しを抑制している可能性が示唆し、BSNT_10618遺伝子産物のエキスヌクレアーゼ活性の有無が重要な検討課題として浮上した。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に行ったRNA-seq法による5種類の挿入配列(IS4Bsu1, IS256Bsu1, IS643-like, ISBma2-like, ISLmo1-like)の発現量検討について、研究代表者がすでに保有する各種変異株、特にコンピテンス誘導に関わる変異株を用いた解析に引き続き取り組む予定である。Jumping CAT法により検出されたクロラムフェニコール耐性獲得株については、転移したcat遺伝子周辺の塩基配列を解析し、末端繰り返し配列の類似性や転移のホットスポット情報を収集する。得られた結果は、すでに知見が得られている枯草菌実験室株(Bacillus subtilis 168)を用いて得られたデータと比較し、IS転移制御の普遍性検証を行う。ところで、実験室株にはBSNT_10618遺伝子が存在しない。つまり、BSNT_10618の前後のゲノム構造は納豆菌、枯草菌実験室の両者間で保存されているものの、BSNT_10618は納豆菌だけに存在する。納豆菌のBSNT_10618は近隣のuvrB遺伝子を元に遺伝子重複によって獲得された可能性が考えられ、ISの多重コピー化との関連性に興味が持たれるところである。そこで、相同性組換えを利用して枯草菌実験室にBSNT_10618を導入し、Jumping CAT法を用いて転移頻度に与える影響を評価する。この実験によって、BSNT_10618の転移抑制機能が直接証明されるだけでなく、様々な実験系の整った実験室株をホストとすることによって研究が加速されと期待できる。
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Causes of Carryover |
実験を効率よく進めることができたため。 次年度、IS転移解析用試薬、消耗品の購入、賃金などに使用する予定。
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