2017 Fiscal Year Research-status Report
マイクロチューブを形成する塩基性分岐多糖における希少デオキシ糖残基の重要性
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16K07714
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
武田 穣 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (40247507)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | マイクロチューブ / Thiothrix / 伸長パターン / 微細構造 / デオキシ糖 / グルコサミノグルカン |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度はα-Proteobacteriaに属するマイクロチューブ細菌であるThiothrix niveaを主な研究対象とした。具体的には下記の4項目に取り組んだ。すなわち、①マイクロチューブ形成多糖に含まれるデオキシ糖の結合位置の確認、②デオキシ糖の化学構造の確認、③マイクロチューブのN-アセチル化度の推算、④T. nivea由来のグルコサミノグルカンの安定構造予測、である。 ①結合位置については過去にのデータを支持する結果を得た。②デオキシ糖の同定については高純度の試料が十分得られたので詳細な2次元NMRスペクトルを取得し、その解析によって予想構造(5-deoxy-3-hydroxymethyl-pentose)を確認することができた。③N-アセチル化度については脱アセチル化を来さぬよう温和な条件で調製したマイクロチューブの組成分析により、N-アセチル化度が非常に低いことを確認した。④安定構造予測については、量子化学計算による力場パラメーター算出から分子動力学計算への手順を簡素化すべくパラメーター算出支援ソフトを開発するとともに、グルコサミノグルカン中の結グリコシド合のポテンシャルエネルギーマップを分子力学計算で算出した。 このほか、N-アセチルグルコサミノグルカンのハイドロゲルを作成し、そのリゾチーム分解性を確かめた。これによって同ハイドレゲルのインプラント基材としての応用の可能性が示された。また、β-Proteobacteriaのマイクロチューブ細菌であるLeptothrix cholodniiの核酸に金イオン還元力を見出した。さらに、T. nivea の菌体が酸性タンパク質で覆われていることを見出すとともに、β-ProteobacteriaであるSphaerotilus montanusのマイクロチューブの予備的分析も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の具体的な達成目的は、マイクロチューブ形成細菌であるThiothrix niveaおよびThiothrix fructosivoransの、①マイクロチューブの化学構造の解明、②マイクロチューブに含まれる新奇なデオキシ糖の同定、③デオキシ糖残基のマイクロチューブ形成への関与の立証、④マイクロチューブの微細構造と伸長パターンの観察である。なお、研究に着手する直前にT. fructosivoransのマイクロチューブの化学構造は決定できた。 研究着手後、①T. niveaの基本的な化学構造を再確認することができた。しかし、②デオキシ糖残基の同定については結晶化が難航しており、NMR解析による環構造の再確認に留まっている。 ③デオキシ糖残基の架橋形成への関与については、分子動力学計算による会合シミュレーションで推察することを前提に、計算にあたって必要なパラメーター算出をするための算出支援ソフトを開発した。また、主鎖であるグルコサミノグルカンのポテンシャルエネルギーマップを作製した。 ④両細菌のマイクロチューブの伸長バターン(割り込み伸長)を生菌の蛍光標識によって確認した。また、両マイクロチューブの微細構造観察には化学固定ではなく凍結置換固定による電子顕微鏡観察が適していることを見出した。 当初の予定にはなかったが、N-アセチルグルコサミノグルカンのハイドロゲルを作成し、その生体適合性を立証した。さらに、L. cholidnii由来の核酸によって金イオン還元がもたらされ金ナノパーティクルが作成できることを明らかにした。さらに、S. montanusのマイクロチューブについても研究の緒についた。 以上のように、難航している取り組みがあるものの予想外の展開ももたらされており、全体としては概ね順調に推移していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる30年度は、残された課題である、①T. niveaのマイクロチューブに含まれるデオキシ糖の同定、②グルコサミノグルカンの立体構造予測、および③マイクロチューブ形成におけるデオキシ糖の役割の推定に注力する。 ①デオキシ糖の同定のため、引き続き結晶化を模索する。デオキシ糖は水はもちろん、メタノール、エタノール、2-プロパノールに可溶で、アセトン、ジエチルエーテル、ヘキサンに難溶ないし不溶であることがわかっている。ただし、メタノールないしエタノールを良溶媒とし、アセトンなどを貧溶媒とする系ではデオキシ糖は水飴状になるに過ぎない。2-プロパノールを良溶媒に用いた場合には微粒子状に不溶化することから、今後は2-プロパノールを良溶媒として条件検討を行う。 ②立体構造予測に必要な力場パラメーターの算出が専用ソフトの開発により可能な状況になっている。そこで、MDシミュレーションを実施し、NMRデータとの照合を経てグルコサミノグルカンの立体構造を把握する予定である。 ③T. fructosivoransのマイクロチューブ形成多糖の構造はデオキシ糖部分を含め決定済みである。この多糖の力場パラメーターを開発したソフトを用いて算出し、会合の可能性をMDシミュレーションで探る予定である。その際、デオキシ糖部分を除いた仮想多糖によるシミュレーションも行って、マイクロチューブ形成の発端と思しき分子の凝集へのデオキシ糖の寄与を検証する。 余力があれば、より包括的に微細構造形成の機構に迫るための素地を充実させるべく、Sphaerotilus montanusのマイクロチューブの構造決定にも取り組む。
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Research Products
(8 results)