2016 Fiscal Year Research-status Report
イネのファイトアレキシン生産制御系におけるサイトカイニンとジャスモン酸の相互作用
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16K07722
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
山根 久和 帝京大学, 理工学部, 教授 (80090520)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | イネ / ファイトアレキシン / 病害抵抗性 / ジャスモン酸 / サイトカイニン / イソペンテニル基転位酵素 / CRISPR/Cas9 / ゲノム編集 |
Outline of Annual Research Achievements |
イネにおける代表的な病害抵抗性反応の一つであるファイトアレキシンの生産は、ジャスモン酸を介したジャスモン酸要求性シグナル伝達経路だけでなく、ジャスモン酸非要求性シグナル伝達経路によっても誘導される。本研究は、ジャスモン酸非要求性シグナル伝達経路において、サイトカイニンが二次シグナル物質として機能し、サイトカイニンとジャスモン酸がファイトアレキシン生産に関して相互作用していることを明らかにすることを目的としたものである。本年度は、ファイトアレキシン生産におけるサイトカイニンの機能を直接的に証明するため、CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集によりサイトカイニン生合成が抑制される変異体の作製を試みた。イネの主要ファイトアレキシンとしてはフラボノイド型のサクラネチンとジテルペン型ファイトアレキシンが存在するが、ジャスモン酸はサクラネチンとジテルペン型ファイトアレキシンの両方の生産を誘導し、サイトカイニンはジテルペン型ファイトアレキシンの生産を誘導する。そこで、ジテルペン型ファイトアレキシン生産におけるサイトカイニンの機能を明らかにするため、ジャスモン酸欠損変異体であるcpm2に対してサイトカイニン生合成酵素の遺伝子破壊を行うことにした。サイトカイニン生合成における鍵酵素の1つとしてイソペンテニル基転位酵素(IPT)が考えられる。イネにおいてIPT 遺伝子のホモログは10種存在するが、ファイトアレキシン生産を誘導するCuCl2で処理した際、IPT3のみが応答性を示したことから、ゲノム編集によりcpm2/ipt3二重変異体を作製し、CuCl2処理したT1世代の当該変異体においてサイトカイニンレベルを定量したところ、cpm2/ipt3二重変異体におけるサイトカイニンレベルがcpm2と比較して顕著に低下していることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の進捗は、ストレス誘導的なサイトカイニンの生産が抑制された変異体の作製が成功するかどうかが鍵になると思われた。ゲノム編集の標的として、サイトカイニン生合成の鍵酵素の候補であるIPTとLOG/LOGLをコードする遺伝子に着目し、ファイトアレキシン生産を誘導する重金属エリシターであるCuCl2処理に対する応答性を調べた結果、IPT3とLOGL9がCuCl2応答性を示したので、ゲノム編集による遺伝子破壊の標的とした。その結果、logl9変異体ではCuCl2誘導的なサイトカイニンの生合成抑制は見られなかったが、ipt3変異体ではCuCl2処理によるサイトカイニンの蓄積は顕著に抑制されており、想定していたサイトカイニン生合成変異体の作製に成功したものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の初年度で想定していたサイトカイニン生合成変異体が取得できた。今後は、T2世代の植物体を用いて、CuCl2処理だけでなくいもち病菌を接種した場合のcpm2/ipt3二重変異体におけるサイトカイニン、およびファイトアレキシンの蓄積量を解析する。また、いもち病菌に対する病害抵抗性についても野生型と比較する予定である。 cpm2/ipt3を取得する過程で得られるCPM2/ipt3(内生サイトカイニンの関与を除外した状態)、および野生型について、CuCl2処理後のファイトアレキシン、ジャスモン酸、サイトカイニンの生合成能を物質レベル(LC-MS/MS)、遺伝子レベルで解析し、cpm2/ipt3の結果と比較し、ジテルペン型ファイトアレキシン生産におけるサイトカイニンとジャスモン酸のクロストークを解明する。
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Causes of Carryover |
本研究に使用するジャスモン酸の受容体タンパク質の抗体を平成28年度の予算で購入する予定であったが、発注したところ、納入が平成29年の6月頃になることがわかり、その分の研究費を平成29年度に持ち越すこととした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度所要見込額(直接経費)は平成28年度未使用額300,000円と合わせて1,900,000円となる。ジャスモン酸受容体の抗体購入に300,000円、人件費に900,000円、分子生物学試薬に400,000円、ガラス・プラスチック器具に200,000円、HPLCカラムと溶媒に100,000円を使用する計画である。
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