2016 Fiscal Year Research-status Report
樹木内生菌類を利用したナラ枯れ防止のための基盤研究
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16K07766
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
塩野 義人 山形大学, 農学部, 教授 (80361278)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ナラ菌 / ナラ枯れ / 抗菌活性 / scytalone / 微生物 / 植物内生菌 / 里山 |
Outline of Annual Research Achievements |
ナラ枯れとは、カシノナガキクイムシより、ミズナラ類にナラ菌が運ばれ、一斉に枯れる現象である。近年、減少傾向にあるが、その詳細なメカニズムは不明な点が多く、色々な対策が試みられいる。 本年度は、これまでに詳細に研究されていないナラ菌の植物毒性物質や代謝産物を明らかにすることを目的とした。ナラ菌を各種培養培地で培養した。(麦芽エキス培地:麦芽エキス:4 %, グルコース:4 %,ペプトン:1.0 %, 水, 培養条件:21 日間、25 度で振盪培養、玄米固体培地:組成:玄米、水, 培養条件:30 日間、25 度で静置培養) 次に、それぞれの培養抽出物について、各種溶媒分画について、TLCやHPLC を用いて、代謝産物について分析することにより、どのような物質が生産されているかどうかを調べた。その結果、玄米固体培地を用いた培地において、顕著な物質の生産性が見られた。続いて、各種溶媒分画、カラムクロマトグラフィー、HPLC 分取などを組み合わせて精製し、二種の化合物 1 と 2 を単離した。化合物 1は、 NMR スペクトルによる分析を行った。まず、1H-NMR スペクトルからは、それぞれガップリングしたベンゼン環メチンに帰属される二種のシグナルが観測された。また、13C-NMR スペクトルからは、10本のシグナルが観測された。カルボニル基や二個のsp3メチレン、一個のメチンに帰属されるシグナルが観測された。続いて、HMBC 実験をより得られた相関により、部分構造を繋ぎあわせて平面構造を明らかにした。その結果、化合物 1はシタロンで有ることが判明した。一方、化合物 2 については化合物 1 の類縁物質であると判明したことより、スペクトルデータを比較しながら行った。その結果、新たに水酸基が結合した類縁物質であった。これらは、植物に対する毒性は示さないものの、抗菌活性を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ナラ菌の培養物より、得られた抽出物から各種カラムクロマトグラフィーにより精査することにより、数種の物質を同定することができた。シタロンはメラニン生合成の初期に関わる物質である。植物病原菌においては、初期の段階で植物に付着するときに発生する付着器のメラニン化が感染に必須であるものもある。これらの物質の同定は、本菌においても、感染プロセスにおいて、メラニンが何らかの段階で関連しているのではないかということを示す知見の一つになった。
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Strategy for Future Research Activity |
ナラ菌の生産する生産物質について、再度、培養物を精査することにより、詳細に調べる。昨年度の培養実験においては、予想していた以上に生産物質が多いことが判明した。その中には、非常に不安定であり、単離中に分解する物質や、単離後、容易に他の物質に変換したり、分解するものが多数見られた。すなわち、それらの物質に植物毒性や生理活性を示す物質が含まれていると予想された。そのことから、更なる代謝産物の精製を実施する。 また、野外においては、ナラ枯れに感染する樹木と感染しない樹木が混在する。それぞれの樹木内部に生息する菌類のバランスが罹患に関連しているのではないかという一つの仮説を立てている。そこで、ナラの樹木などに共生する他の菌類について、採取した樹木より分離し、それらの分離菌類の生産する物質を精査する。そのような菌類生産物質には、ナラ菌の生育を抑える作用を示す物質の生産や、ナラ菌と同じ培養基で二元培養することにより、ナラ菌の代謝産物の生産を抑える働きを有するのではないかと考えられる。これらのことから、野外採取のナラの木などから分離した菌類にいても、代謝産物を調べることにする。
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