2016 Fiscal Year Research-status Report
日本国内の林地にみられるアーバスキュラー菌根菌群集に関する研究
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16K07770
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
大和 政秀 千葉大学, 教育学部, 准教授 (00571788)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
谷口 武士 鳥取大学, 乾燥地研究センター, 准教授 (10524275)
折原 貴道 神奈川県立生命の星・地球博物館, 学芸部, 学芸員 (30614945)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | アーバスキュラー菌根菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
アーバスキュラー菌根(AM)は陸上植物とグロムス菌門に属する菌群との共生によって形成される、最も普遍的にみられる菌根である。AM菌は胞子の形態によって種の記載が行われ、これまでに約250種が同定されている。一方、リボソームRNA遺伝子などを対象としたAM菌特異的プライマーの開発によって植物根内のAM菌を分子同定することが可能となり、様々な生態系においてAM菌群集に関する研究が進められ、多様な未同定AM菌群の存在が明らかとなっている。 森林生態系のAM菌共生に関する知見は不十分であり、特に日本国内の林地は国土の約7割を占めるにもかかわらず、AM菌についてはほとんど研究がなされていない。我々はこれまで二次林(Yamato and Iwase 2005)や菌従属栄養性のAM菌群集に関する研究(Yamato et al. 2011)を行っており、その中で長野のヒノキ植林地、岐阜および京都の二次林において、得られた7つのAM菌の系統タイプ(97%相同性で区分)のうち6つが3ヶ所で共有されるという結果を得ている。そこで、「日本国内の林地には、地上部の生物多様性とは対照的に、地域や樹種の影響をあまり受けない林地特有のAM菌群集がみられるのではないか」との仮説を立て、本研究では、日本国内の林地におけるAM菌群集の類似性に関する上記の仮説を検証することを目的として、日本国内の様々な地域において、AM菌共生植物が優占する二次林とスギ・ヒノキなどのAM菌共生植物の植林地を対象としAM群集の解析を行っている。 また、さまざまな森林からAM菌の胞子果を収集し、分子同定、形態的特徴の記載、菌根形成試験を行う。この2つのアプローチ(根内菌糸の分子同定と胞子果の記載および分子同定)を統合し、日本国内における林地特有のAM菌群集を明らかにする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
岡山県、鹿児島県、神奈川県の3地域において、AM菌共生樹種が優占する二次林およびヒノキ植林地を対象としてAM菌群集に関する調査を行った。各調査林を代表する植生がみられる地点で5 × 5 m の調査プロットをそれぞれ約10 m離れるように3カ所設定し、高木と低木に関する植生分布図を作成した。中心地点とその上下 50 cm の 3 カ所にサンプリング点を設け、直径 5 cm 、深さ 10 cm の土壌コアサンプルを採取し、3つのサンプルを一つにまとめ、調査プロットのサンプルとした。土壌コアサンプルから洗い出した植物細根からDNAを抽出し、プライマーAMV4.5NF-FとAMDGR-RでAM菌のrDNAのSSU領域を、プライマーtrnLh-FとtrnLc-Rで葉緑体trnL(UAA)遺伝子のイントロン領域をそれぞれPCRによって増幅し、次世代シーケンサーIonPGMを用いてシーケンスを行った。いずれかのサンプルで 5 %以上の検出がみられた AM菌の19 OTUうち、約半分の 9 OTUはYamato et al. (2016)で岐阜県の二次林、長野県のヒノキ林、京都の二次林から検出されたAM菌に該当し、これらのAM菌が広く関東以西の林地に分布していることが確認された。 これまでDNAデータが存在していなかったGlomus microcarpumの胞子果を栃木県宇都宮市のヤブツバキ樹下から採取し、SSU-ITS-LSU rDNA領域の塩基配列(1548-1553 bp)による分子系統学的解析を行ったところ、Blaszkowski (2015)によって報告された新属Kamienskiaに近縁であることが明らかとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
2016年度の研究によって、林地のAM菌群集調査に関して実験方法を確立することができた。2017年度以降は千葉県、神奈川県、東京都、栃木県、滋賀県等に新たに調査地を設定し、引き続きAM菌群集の調査を行うとともに環境データの収集を行い、地域・植生・環境因子がAM菌群集に及ぼす影響について解析を進める予定である。 胞子果についてもこれまでに4種の胞子果を収集し、形態的特徴の記載とrDNAの塩基配列に基づく分子系統解析を進めている。林地のAM菌群集の結果と照らし合わせ、これまで未同定種とされてきたAM菌種の解明を進めていく。さらに胞子果を接種源としてAM菌の培養を行い、継代培養に成功した菌株については、公的菌株保存組織への寄託を行う予定である。
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Causes of Carryover |
スケジュールの都合上、調査地点数が当初の予定よりも少なく調査予定を翌年に変更したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度の調査地点を当初の予定よりも増やし、解析を行うため、そのための経費に充てる。
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Research Products
(2 results)