2017 Fiscal Year Research-status Report
ミズゴケと共生する窒素固定微生物相と光合成活性との関連
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16K07784
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Research Institution | The University of Kitakyushu |
Principal Investigator |
原口 昭 北九州市立大学, 国際環境工学部, 教授 (50271630)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ミズゴケ / シアノバクテリア / 安定同位体比 / ユーグレナ / 群落光合成 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.安定同位体比を用いたミズゴケ植物体の窒素固定機能の評価:大分県タデ原湿原および坊ガツル湿原、長野県大阿原湿原、前山湿原および田ノ原湿原、北海道東落石湿原、インドネシア・中央カリマンタンラヘイ地域、フィンランドペーラ、同イート、同ラーサ、同ヨエンスー地域、スウエーデン・アビスコ地域の各泥炭地から得たミズゴケ試料について窒素安定同位体比を分析し、昨年度のデータと併せて解析を行った。 2.ミズゴケ植物体に生息するユーグレナ属種の生理活性の評価:上記の各産地から得たミズゴケ植物体中に生息する底生ユーグレナ属種の分布状況を調べ、窒素安定同位体比から窒素固定との関連について調べた。また、ミズゴケ植物よりユーグレナ属種を単離し、この生理活性を評価することを試みた。これらの地域でミズゴケと共生するユーグレナ属種の単離はまだ成功していないため、坑排水(福岡県鞍手町泉水)および火山性湧水(大分県坊ガツル)より得た同種のユーグレナ系統について窒素栄養および光合成活性の計測を行った。 3.ミズゴケ植物体に生息するユーグレナ属種およびミズゴケに共生する細菌の単離と遺伝子解析:ミズゴケ植物体中に生息する底生ユーグレナ属種、およびタデ原湿原および坊ガツル湿原より得たオオミズゴケ、ヒメミズゴケ植物体から、無窒素平板培地を用いて単離を行った微生物の遺伝子解析を試みた。ミズゴケ植物体中に生息する底生ユーグレナ属種については、単離が完了しなかったため、極力単独となるように試料を調整し、遺伝子の抽出を行った。これと、排水および火山性湧水より得た同種のユーグレナ系統について、遺伝子解析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.安定同位体比を用いたミズゴケ植物体の窒素固定機能の評価:産地間の比較から、産地ごとに一定の範囲内で窒素安定同位体比が分布することが明らかとなった。この中で、タデ原湿原、坊ガツル湿原、ラヘイ地域、ペーラの試料について、窒素安定同位体比が0‰付近に分布したことから、これらの地域のミズゴケは、種によらず窒素固定に依存して窒素源を得ている可能性が高いことがわかった。また、フィンランドイートの試料は2~6‰の高い値を、また北海道東落石湿原の試料は-4~-6‰の低い値を示した。これらの地域のミズゴケは、窒素固定に依存せずに窒素源を得ている可能性が高いが、具体的な窒素源については知見が得られていない。 2.ミズゴケ植物体に生息するユーグレナ属種の生理活性の評価:大阿原湿原およびペーラ泥炭地から得たスギバミズゴケより底生ユーグレナを得ることができた。このうち、ペーラ泥炭地から得たミズゴケは窒素安定同位体比が0‰付近に分布したが、大阿原湿原から得たミズゴケの窒素安定同位体比は-2‰付近に分布したことから、ミズゴケとユーグレナ属種との共生は直接窒素固定と関連が薄いことが考察される。ユーグレナ系統の生理活性の計測では、ユーグレナ属種はアンモニウム態窒素が硝酸態窒素より良好な増殖を示すが、硝酸態窒素も利用可能であることから、わずかではあるが硝酸還元活性を示すことがわかった。 3.ミズゴケ植物体に生息するユーグレナ属種およびミズゴケに共生する細菌の単離と遺伝子解析:底生ユーグレナ属種の5系統について遺伝子解析を行ったが、良好な結果が得られなかった。ミズゴケと共生する細菌に関しては、当初は、本年度中に単離まで行う予定であったが、コロニーの形成に1か月以上要したため、進捗がやや遅れたものの、複数のコロニーを得ることができたため、本項目についてはほぼ見通しが立ったと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
1.安定同位体比を用いたミズゴケ植物体の窒素固定機能の評価:統計的な解析に必要な試料数に達していないため、さらに分析試料を増やすとともに、一生育地内での各ミズゴケ種の分布とその環境、成分、安定同位体比の関連を解析し、安定同位体比の決定要因を明らかにする。窒素固定に関係する遺伝子の解析が必要であるが、今年度は試行的に実施する。 2.ミズゴケ植物体に生息するユーグレナ属種の生理活性の評価:ミズゴケ類と共生するユーグレナ属種の単離を完成させ、それが窒素固定と関連を有するか否かについて検討する。ここでは、ユーグレナ属種の直接的な窒素固定機能とは別に、ミズゴケと窒素固定細菌との共生関係を介在する位置づけでユーグレナ属種の共生種としての機能を解明する。さらに、ミズゴケ植物体中でのユーグレナ属種の生理活性を計測し、ミズゴケの生育状況との関連を解析する。 3.ミズゴケ植物体に生息するユーグレナ属種およびミズゴケに共生する細菌の単離と遺伝子解析:今年度解析結果が良好でなかった原因を解明し、再度解析を試みる。確認された5種のコロニーについて、それぞれ培養を行い、それらの株の保存と遺伝子解析を行う。また、共生種のフロラを生育地間で比較し、生育環境との関連を解析する。本項目に関しては、現在確認されているコロニーの解析と試料数の拡充を今後行う予定であるが、当面は現在確認されている微生物の遺伝的特性の解析から進める予定である。
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Causes of Carryover |
繰り越しが生じた理由:今年度は、ミズゴケ類と共生するユーグレナ属種の遺伝子解析を試みたが、良好な結果が得られなかったため、その先の解析を中止した。さらに、ミズゴケ試料の採取を複数地域で行う予定であったが、そのうちの数か所について体調不良のため実施することができなかった。したがって、遺伝子解析の委託経費、旅費を次年度に繰り越すこととなった。 使用計画:ミズゴケ類と共生するユーグレナ属種およびミズゴケに共生する細菌の単離と遺伝子解析については、今年度解析結果が良好でなかった原因を解明し、再度解析を試みる。また、ミズゴケ試料の採取を当初予定した場所すべてについて実施する。この際に、繰り越した予算額に次年度配当額を加えて作業を実施する。
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Research Products
(4 results)