2017 Fiscal Year Research-status Report
介護予防に資する木育活動の検証と支援スタッフ養成カリキュラムの開発
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16K07811
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
田口 浩継 熊本大学, 教育学部, 教授 (50274676)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 木育 / 介護予防 / スタッフ養成 / 木育カリキュラム |
Outline of Annual Research Achievements |
近年の介護保険制度の改正に伴い各市町村では、要支援・要介護になる前の段階から介護予防に資する予防重視方システムの確立が求められている。一方、木材利用に関する教育活動である木育は、木や森について知る、木や森に触れる、木を素材にしたものづくりからなる。従来の木育は、子どもを対象とするものが多く見られたが、本研究では主に高齢者を対象とする介護予防に資する木育プログラムを検討するとともに、 それらを指導するスタッフの養成と実践に取り組む。さらに、介護予防における木育活動の効果を検証し、全国に提供できる介護予防に資する木育プログラム及びこれらを担うスタッフ養成プログラムの開発を行う。 平成29年度は、熊本県玉名郡長洲町において介護予防拠点施設で木育活動を提供すると共に、各種活動に参加した152人(男性:34人、女性:138人)に対してPOMS2を用い調査を行った。POMS2は、気分・感情の状態変化を表す得点を算出する調査用紙で、質問の回答が得点化され、7つの尺度に分類される(内1つはダミー項目)。それらの尺度は怒り-敵意、混乱-当惑、抑うつ-落込み、疲労-無気力、緊張-不安、活気-活力、ダミー項目である友好からなる。調査の結果、 木を素材にしたものづくり活動によって、気分・感情の状態変化が好転することが明らかとなった。男女別にみると女性の方がより好転し、年齢別にみると年齢が高くなるにつれて好転しており、より高齢の方にものづくり活動は効果的であるといえる。 スタッフ養成は、平成29年度は熊本県や山口県で7回実施し211名の受講があった。修了生に対しては、木育プログラムに使用するスライドや教材・教具を提供するとともに、「くまもとものづくりフェア」等にスタッフとして参加させ、実践の場を提供することができた。また、長洲町の介護予防拠点施設で実施した活動にも延べ20名がスタッフとして参加した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画に従い介護予防施設における木育を実施した。長洲町の介護予防拠点施設では、平成29年度は21日、16施設において木を素材にしたものづくり教室を開催し、円形木琴や金魚の車、積み木、ミニ門松の製作を行った。なお、これらの教材は、研究代表者と熊本ものづくり塾(研究代表者が顧問)が開発したものである。平成29年度は、延べ453人の参加があった。指導は、熊本大学教員、熊本ものづくり塾および長洲町の木育推進員(一部は町職員)など延べ70人が担当した。この内、木育推進員養成講座の受講者は20人であった。 これらの施設においてアンケート調査や聞き取り調査を行い、木育の介護予防に資する効果を測定した。新たに木育活動の実施前と事後に、緊張・抑うつ・怒り・活気・疲労・混乱を測定する心理テストを行い、活動毎の情緒面の効果について明らかにした。これらの事については、学会で発表するとともに論文化した。また、平成28年度に出版した木育に関する単著も、木育の理解者・賛同者を増やすのに効果的に活用できた。 学会以外に、独自の木育の実践に関する発表会を平成30年2月17日に熊本大学において実施し、県外からの出席者17人を含め80人の参加が有り、木育の役割・効果を共有することができた。(本イベントは、熊本県と共同主催で、3回目の開催事業)
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Strategy for Future Research Activity |
介護予防拠点施設における木育活動については,平成30年度以降も継続的に実施すると共に、調査を行いその詳細な効果についても明らかにしていきたい。具体的には,平成30年度の高齢者の木育活動への参加者数や参加率,さらに,木育活動を積極的に行った地域 とそうでない地域の要介護認定率,町全体の介護サービス給付費の推移を調査する予定である。さらに,木育活動の実施前と事後に, 緊張・抑うつ・怒り・活気・疲労・混乱を測定する心理テストを行い,活動毎の情緒面の効果についても引き続き明らかにしていきたい。年齢や性別、提供する教材(製作するもの)による違いについても明らかにする。介護予防拠点施設の活動において、行政が一番課題としていることが男性の参加者の少ないことである。他の活動に比べ木を素材にしたものづくり教室には、男性の参加が多くみられる。男性を参加させる手立てとして、どのような内容を提供することが重要かについても検討する。また、これまで実施してきた木育の指導者を養成する講座においても、介護予防の視点を取り入れた内容を開発し、平成30年度の講座から導入する予定である。全国展開を含め、熊本県以外での講座の実施(現在、山口県、兵庫県、福井県で実施予定)についても積極的に取り組んで行きたい。受講生に対しては、木育に関する全てのノウハウを伝えるべく内容を構成するとともに、それらの内容を集積したCDの配付も今後も無料で行う。
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Causes of Carryover |
(理由) 平成28年度の熊本地震により、平成28年度前半は研究計画に従った実施は困難となった。また、平成28年度より副学部長となり、熊本地震への対応が年度前半に集中し、年度後半は会議の日程など考慮すると長期に大学を空けることが難しく、予定していた海外出張を入れることができなかった。平成29年度は、ほぼ計画通りに進んだが、平成28年度の予算まで含めた予算の活用ができなかった。前年度に計画していた海外出張も実現できず旅費を使うことができなかった。 (使用計画)昨年度実施できなかった事案については、出来るだけ早く実施する。海外出張(韓国への調査)についても、国内外の情勢を考慮しつつ、早期に実施する。
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