2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K07826
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
上 真一 広島大学, 生物圏科学研究科, 特任教授 (80116540)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ビゼンクラゲ / 有明海 / ポリプ / 呼吸速度 / 資源量 |
Outline of Annual Research Achievements |
クラゲ類の個体群動態の解明には、野外でのポリプ生息場所の確定とその場の環境要因の把握が最重要課題である。本種メデューサは、一般に有明海の最奥部から沖合海域へと拡大分布する傾向があるので、湾奥部の六角川河口域を中心としてポリプとエフィラの探索を行った。3月下旬から4月上旬の時期にエフィラが出現し、その時の塩分は15~20の範囲にあった。エフィラ出現場所の近傍にポリプが存在すると推定されるので、河口域の底にカキ礁を形成するスミノエガキ、シカメガキを採集して、殻に付着すると予測されるポリプの探索を行った。しかし、ポリプの発見には至らなかった。また、9月に成熟メデューサから得たプラヌラを異なる塩分に収容し、それらの生残や付着状況、ポリプの成長などを実験的に調査した。プラヌラは塩分10~32の範囲で正常にポリプに変態し、成長したことから、本種のポリプは汽水域に生息する特性を有することが確かめられた。 個体の成長速度の推定のためには、呼吸速度の測定が必須である。そこで、エフィラから小型クラゲに至る個体の呼吸速度を測定した。その結果、呼吸速度(R, mg O2 ind-1 h-1)と湿重量(W, g)との関係はR=0.0447W1.08で示され、呼吸速度は体重増加に伴いほぼ直線的に上昇することが明らかとなった。乾燥重量は湿重量の平均3.0%、炭素重量は乾燥重量の平均11.6%であった。 過去に実施した音響カメラを用いたビゼンクラゲの分布と定量調査結果を取りまとめた。本機器が本種の資源量推定において威力を発揮することが確かめられた。 2016年度のビゼンクラゲの資源状況をクラゲ漁業者から聞き取り調査した。その結果、「全体としてクラゲは大発生の状況にあったが、多くの漁業者が参入した結果、解禁後1ヶ月を経過した7月末にはほぼ取り尽くした状態となり、クラゲ漁の漁船は急減した」とのことであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
重要課題の一つであるポリプ生息場所の確定には至っていないものの、多くの状況証拠からポリプは六角川河口域のどこかに生息している可能性が高く、今後も継続してカキ殻採取とその観察を行うことでポリプの発見に至るであろうと推定される。その他の課題についてはほぼ予定通りの調査や解析ができており、有明海におけるビゼンクラゲの個体群動態の全容が次第に明らかになりつつあり、進捗状況は概ね順調である。ただし、解禁前の6月末時点での資源量の把握は漁業者への聞き取り調査に頼っている現状であり、より精度の高い調査が必要であると認識している。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的には前年度の調査項目を継続するが、今年度は下記の調査などを行う予定である。 1)六角川河口域でのポリプとエフィラの探索。2)調査ポリプ生息域が特定されたら、その場所での物理化学的環境要因の周年測定。3)メデューサの食性解明と呼吸速度に基づく最小餌要求量の推定。4)エフィラ、メデューサの平衡石重量測定に基づく日齢の査定。5)異なる時期に採集したメデューサの重量測定と、日齢に基づく成長式の算出と成長速度の把握。6)アンコウ網に入網する小型メデューサの量に基づく初期発生量の推定。7)クラゲ漁業者の漁業日誌に基づく単位努力量当たりの漁獲量の算出と、資源量との対応比較。8)生殖腺成熟過程のモニタリング。
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Causes of Carryover |
今年度、ビゼンクラゲのポリプの生息場所が確定できなかったので、その場の環境要因をモニタリングする機器を購入しなかった。このことが物品費の大幅な減少となった。また、傭船費用を多く見積もっていたが、実際には請求された金額は少なかったことが、その他の項目における費用の減少となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
ポリプ生息場所が確定されたら、直ちに環境要因測定のための機器を購入する予定である。次年度はより頻繁な採集を行う予定であることから、有明海への出張回数が増加すると見込まれ、同時に傭船費用も増加すると思われる。また、次年度は国際会議への参加発表や、クラゲ資源量把握の研究発展に資するために、ビゼンクラゲの大産地である中国や、ビゼンクラゲと類似した食用クラゲを産する東南アジアでの現地調査を予定している。
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