2016 Fiscal Year Research-status Report
日本の漁業管理と個別割当(IQ)の親和性に関する研究-日本型IQとは何か-
Project/Area Number |
16K07848
|
Research Institution | Fukui Prefectural University |
Principal Investigator |
東村 玲子 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 准教授 (30363881)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 漁業管理 / 資源管理 / IQ / TAC / 自主的管理 / ズワイガニ / 北部太平洋まき網 / 個別割当 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本海西部海域における大臣管理分のズワイガニのTACの府県別割当のしくみを全国底曳網漁業連合会に対する聞きとり調査を基に明らかにした。すなわち,過去3年間の実績に基づく配分比率が決まっており(3年ごとに見直す),TACのうちの当該海域の配分が決まれば自動的に府県別割当も決まるしくみとなっている。但し,2015年度漁期までは業界として7%の留保分を有していたが,2016年度漁期より廃止された。 このしくみに対する理解度及び満足度を福井県2名,兵庫庫県2名,鳥取県1名,石川県1名の代表的な漁業者に対して行った所,しくみの詳細への理解度は低いものの「ずっと決まった方式で決めている」という,「配分のルールは予め決まっている」という認識は共有されていた。また,その満足度も「当たり前のこと」として受け入れている。 但し,府県別割当をさらに細かい単位(例えば地域ごとや漁港ごと,さらには個々の漁船)に割り振っている事例は皆無であった。また,IQ制への移行について賛同を示した漁業者はいなかった。理由としては,「初期配分が上手く行くはずがない」,「個々の努力を残すべきである」などがあった。なお,いずれの漁業者も自分が漁獲しているズワイガニ(他の魚種も)数量については全く把握しておらず,金額のみ把握していることが判明した。IQ制に移行するならば数量の把握が必須であるが,ここにおいて産地市場やそれを開設している漁協の役割が重視されることが示唆された。 北部太平洋まき網漁業については,毎年,北部太平洋海域で操業している船団以外にも,歴史的経緯により当該海域で操業出来る船団が潜在的に存在していることが,IQ制に関する制度的欠陥になると示唆された。但し,2017年の許可の一斉更新で,操業許可海域(まき網漁船団の多くは複数海域で操業を許可されている)の一部譲渡は不可能になる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
北部太平洋まき網漁業の経営者1名に聞き取り調査を行った結果,試験的IQが動いている時(漁期中)に調査行うのが良いというアドバイスを得た。しかしながら,2016昨年度は試験的IQが導入されているマサバの魚群の来遊が遅れ,年末から2月となってしまい,教育業務と重なって聞き取り調査に出ることが出来なかった。 また,実質的に研究分担者並みのエフォートを配分出来る予定であった研究協力者(2017年度より研究分担者となる)が,大学へ転職することが決まったために,残務処理が多く,予定よりもエフォートを配分出来なかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
昨年度とは異なるズワイガニ漁業者への聞きとり調査を実施していく。昨年度の調査対象は沖合底曳船の船主(又は船主船頭)ばかりであったが,小型の底曳網漁業者の中にはIQ制に賛同する者もいるとの噂を聞いたため,今年度は小型底曳網漁業者および沖合底曳網漁業者の中でも比較的小さい船の漁業者を対象に聞きとり調査を継続する。一度に複数の漁業者を対象とするのを避けようとすると,先方窓口(府県レベルの底曳網漁業団体)が対応に苦慮する様で(一緒に済ませてしまいたい),調査の実施方法にも検討の余地があると考えている。 また,ズワイガニの自主的管理は,実はTACの府県別割当よりも,漁期,大きさ,航海ごとの数量制限などの方が実際の漁獲量の抑制に資しているという見解もあったため,この点も聞きとり調査項目に加えて,IQ制との関連につき,検討を行う。 昨年度は北部太平洋まき網漁業の経営者1人にしか聞きとり調査を行えなかったので,今年度以降,全員の北部太平洋まき網漁業の船主への聞きとり調査を実施する。北部太平洋まき網漁業には試験的IQが導入されているが,聞きとり調査を行うならば,IQが動いている時(すなわち漁期中)に行うのが良いとの助言を得ている。もし2017年度もタイミングが合わなければ,2018年度には漁期中でなくても調査を実施することとする。 海外調査の前に,まずは日本の事例と海外の事例を比較可能にする尺度の構築を行う。その上で,カナダとニュージーランドにて調査を行う。 ズワイガニの調査において,2016年度の結果を2017年度以降の調査にフィードバックする様に,最終年には一連の調査結果の概要を業界団体や漁業者へフィードバックした上で聞きとり調査等を行い,調査の検証を行う。
|
Causes of Carryover |
2016年度は,研究代表者の所属する大学から得る当該年度渡し切り旅費により,聞きとり調査を行うことが可能であったため,翌年に繰り越せる科研費より優先してそちらを使用したため,旅費を科研費から捻出することなく調査が可能であった。 さらに,北部太平洋まき網漁業については,聞きとり調査に出向くことが2回しかなかったために旅費を使わなかった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究協力者を研究分担者とするため,研究代表者:1,973,200円と研究分担者:926,800円に配分する。 当初決定された予算では,2カ国への海外調査の遂行が懸念されたが,カナダ(585千円:旅費及び現地での人件費))とニュージーランド(410千円:旅費及び現地での人件費)での調査を2017年度または2018年度に行う。 北部太平洋まき網漁業者への聞きとり調査は,ほとんどが東北地方で行うことが予想されるため,この旅費に充当する。ズワイガニ漁業者,業界団体(主として全国団体:在東京)への聞きとり調査も引き続き行う。
|