2017 Fiscal Year Research-status Report
DNA親子鑑定技術を用いたエゾアワビ養殖における実用的な高成長選抜育種技術の開発
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16K07850
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
奥村 誠一 北里大学, 海洋生命科学部, 教授 (60224169)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | エゾアワビ / 選抜育種 / DNA親子鑑定 / マイクロサテライトDNA / 遺伝的集団構造 / ミトコンドリアDNA / トレサビリティー(生産者特定) / 遺伝的多様性 |
Outline of Annual Research Achievements |
北日本水産にて昨年度採卵し、養殖用水槽で飼育していた稚貝、当研究室にストックしてある過去6年間にわたる同施設産のサンプル、および他養殖施設で種苗生産された成貝を用いて分析した。また、今年度新たに種苗生産し、養殖用水槽で飼育している稚貝を異なる成長群毎に採集し分析中である。本研究の一つのテーマである「トレサビリティー(生産者特定)の充実」に対しては、昨年度判明した、北日本水産にとって他施設産と区別できる可能性を持つミトコンドリア(mt)DNA領域(他施設で稀に出現するハプロタイプが北日本水産では約60%出現した)に加えて、さらなる判別能の向上を目指して新たなmtDNA領域を探索した結果、用いた他養殖集団では全く出現しない珍しいハプロタイプを発見し、それを用いて北日本水産の種苗を94%判別可能にした。このことは、生産者特定を実用化する上で極めて重要である。稚貝の成長形質の発現に対する親貝の再現性については、前年度までに成長優良稚貝を多く産したとして選抜しておいた親が、死亡または今年度の採卵の際に成熟に至っていなかった等の理由により十分に検討できなかったが、今年度新たに優良親貝を選抜すべく、親貝のDNAを分析している。また過去のサンプルを解析した結果、成長優良稚貝を産した先代の親は、次世代の親として選抜された成長優良親貝を産した親と一致する傾向を示していた。さらに、交配群毎に稚貝の成長形質に対する雌親および雄親の関与の程度に偏りを生じていることが示唆された。このことは種苗生産現場での親貝選定に対して重要である。遺伝的集団構造解析の結果、遺伝的多様性は、本施設で野生集団を親として一部用いた時に一時的に上昇したが、その後低下する傾向にあることがわかった。ストラクチャー解析の結果、このことは野生集団の遺伝的要素が選抜の過程でほとんど排除されたことによるものであることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
生産者を特定するトレサビリティーの充実に向けた研究は、本年度でほぼ完成したといえるので予定より順調に進んでいる。また遺伝的多様性の把握についても、これまでの一連のサンプルの解析も含めて結果を得た点、また野生の遺伝的要素が選抜の過程で排除される機序解明に迫る結果も得られ、遺伝的多様性のコントロールに関する示唆を与えた点で順調といえる。親貝が示す稚貝の成長形質に対する再現性の検討については、親貝の死亡または今年度の採卵の際に成熟に至っていなかった等の理由により充分に検討できなかった面もあった。これに関しては、上記のとおり、過去のサンプルを含めた解析により一部補えているが、このことも含めて、全体的には「おおむね順調に進展している」と判定した。
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Strategy for Future Research Activity |
優良(あるいは不良)稚貝を産することに対する親貝の再現性については、前年度に示した成長形質に対する特性が、次年度においても見られるか否かについて、珍しいアリルの存在に留意しつつこれまでのサンプル・データも含めてDNA親子鑑定により検討する。上記したように、本研究を進める中で判明してきたことに、前年度以前に採卵・採精に用いられた親貝が次年度までに死亡または次年度採卵の際に成熟が充分でない等の理由で、次年度に親として用いることができなくなることが頻繁に起こっている。このことは、前年度に優良な稚貝を産した親を次年度も用いることで選抜していくことが、実用化を目指す場合に実践的であるとは言い難い可能性を示している。そこで、この重要である再現性に対する検討は進めつつも、実用化を目指すためには、加えて前年度の親を用いることに拘らずに効率的に優良稚貝を生産するための方策も考えておく必要がある。そこで、本年度も検討した、稚貝の成長形質に対する雌親および雄親の関与の程度について更に詳しく検証する。また、ミトコンドリア(mt)DNAのハプロタイプ群と成長との関係を調べる。mtDNAは母系遺伝するので、北日本水産が長年にわたり成長の優良な雌親を選抜していく過程で、無意識に「ある雌親系統」を選抜していた可能性がある。この雌親系統を突き止めることができれば、予め雌親のmtDNAを調査して選抜することができるようになる。更に、本年度は最終年度であるので、本研究の総括を行う。
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