2016 Fiscal Year Research-status Report
天然河川におけるニホンウナギの生理生態学的解析に基づいた資源動態モデルの構築
Project/Area Number |
16K07851
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
吉永 龍起 北里大学, 海洋生命科学部, 准教授 (30406912)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ニホンウナギ / シラスウナギ / クロコ / 塩類細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
ニホンウナギの漁獲量は1970年代から激減し,天然種苗に専ら依存している養鰻業では深刻な問題となっている.本種の資源を回復するためには,河川に加入する時期と量,および河川での生残の実態を把握することが重要である.しかし,いつどのくらいの数のシラスウナギが接岸し,どのように河川に定着するのかはほとんど明らかとなっていない.そこで本研究は,周年の来遊量調査によりシラスウナギの接岸量と時期について科学的に信頼できるデータを取得するとともに,淡水域移行にともなう生理・生態的な変化を多面的に理解することを目的とした. 相模川河口において,2016年4 - 6月にそれぞれ7- 32個体のシラスウナギが採集され,7月にはクロコ期の個体が確認された.11月から翌年の2月にかけては22 - 106個体のシラスウナギが採集され,これは同地点における過去7年間の接岸量と比べて著しく多かった.酒匂川水系の下菊川では,クロコ期から黄ウナギ期にかけて計10個体が採集された. 鰓の組織観察は,シラスウナギ期およびクロコ期について行った.クロコ期の標本は,生息域の塩分により汽水群と淡水群に区分した.4種類の抗体による免疫染色では,いずれも明瞭な陽性反応を確認できた.抗NKA抗体および抗NKCC抗体は,いずれの標本でも免疫陽性細胞が確認された.一方,抗CFTR抗体はシラスウナギ期および汽水クロコ期では明瞭な陽性細胞が見られたものの,淡水クロコ期では微弱であった.抗NKCC抗体陽性細胞はすべての生活史段階で存在し,抗CFTR抗体陽性細胞は淡水に移行した時点で減少したことは,環境の塩分に応じた変化と解釈できる.抗マウスNKA抗体の陽性細胞の大きさは,シラスウナギ期では汽水クロコ期の2.3倍,淡水クロコ期の3.2倍であった.すなわち,抗NKA抗体陽性細胞は塩分を反映して細胞の大きさが変化することがわかった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
標本の採集および解析について,ほぼ計画通りに進行した.相模川河口におけるシラスウナギの定量的採集については,現段階では技術的および漁獲規制による問題の解決が難しいため,これまでと同様に光を利用した採集を実施した.過去7年間の実績と比較して採集量は極めて多く,東アジア一帯における漁獲動向と一致していた.クロコ期の個体の採集については期待したほどを得ることはできなかったが,これは前年度の加入量が少なかったためと考えられた.2016年度は多くの加入があったと考えられるため,次年度は十分な数を確保できると予想している. 鰓の塩類細胞の観察では,用いた全ての抗体で明瞭な陽性シグナルを検出できた.また,海水から淡水へと生息の場を移行する際の生理的な変化と対応させることができた.一方,二重染色の際に非特異的なシグナルも見られたことから,組織固定法の改善を検討している.
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Strategy for Future Research Activity |
申請時に計画した項目を順調に解析できているため,計画は変更せずに進める.シラスウナギの採集は,これまでの手法と併用して,より効率的な採集が期待できる手網を開発する(現在進行中).7月から10月までは来遊がないため,特にこの期間は手法の開発を重点的に進める.クロコ期の採集では,電撃捕魚機による手法に加えて,人工海藻をトラップに用いた採集も行う.初年度の試験的な試みにより採集できることが確認されているため,より大規模な調査を行って検証する.さらに,淡水から海水に移動する生活史段階である銀ウナギ期の採集も試みる.ただし資源に対する負荷を最小限とするため,原則として直ちに放流することとする. 期待通りにクロコ期の個体を採集することができたら,初年度に引き続き鰓の塩類細胞を免疫染色によって観察するのと同時に,塩の取り込みと排出に関わる分子群の動態をmRNAレベルで調べる予定である.
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