2019 Fiscal Year Research-status Report
視覚的障害物の競争緩和効果を利用したサケ科複数種の放流魚と野生魚の共存策の提言
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16K07857
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Research Institution | Fisheries Research and Education Agency |
Principal Investigator |
長谷川 功 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 北海道区水産研究所, 主任研究員 (00603325)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | さけます / 捕食-被食関係 / 食物連鎖 / 種苗放流 |
Outline of Annual Research Achievements |
種苗放流は、競争や捕食-被食関係などの種間関係を通じて他種あるいは群集構造に影響を及ぼしかねない。さらに、これらの種間関係の帰結は、生息地の物理環境に左右され得る。サケ科魚類サクラマスは毎春、体長5cm弱の稚魚が河川に放流される。稚魚は水生昆虫を多く捕食し、同種他種を問わず強い密度依存型の競争を示す。また、大型の魚類などに捕食される。つまり、放流されたサクラマス稚魚の影響は、栄養段階を問わず多岐に渡ると考えられる。このことを確かめるために環境の異なる複数地点で調査を行った。 調査は、5月から9月にかけて北海道尻別川水系で行った。5月下旬に放流が実施された地点に6箇所、非実施地点に3箇所の調査区を設け、それぞれで水生昆虫の採集、放流されたサクラマス稚魚および競合種・捕食者であるサケ科イワナの胃内容物を採取した。また、イワナは個体識別を施し、成長様式を把握するために体長の推移を追跡した。調査は放流前に1回、放流後に4回定期的に行った。 その結果、イワナの食性と成長様式について、放流実施地点と非実施地点間で違いが確認された。放流実施地点では、放流前のイワナは水生・陸生昆虫を捕食していたのに対し、放流直後から6月中旬頃までサクラマス稚魚を捕食していた。ただし、放流実施地点間ではこれらのパターンに違いはなかった。放流非実施地点のイワナは調査期間を通じて水生・陸生昆虫を捕食していた。また、イワナの成長率は放流実施地点の方が非実施地点よりも高かった。イワナとサクラマス稚魚では餌メニューの重複も見られたため、種間競争も生じてはいるものの、本研究ではサクラマス稚魚の被食を通じたイワナの成長への寄与が強く検出されたと考えられる。さけますの種苗放流にも生態系への配慮が求められるようになった今日、本研究が示した放流魚の生態系への影響に関する知見は、放流手法改善に役立つことが期待され、意義深い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、天候にも恵まれ、野外調査は計画通りに実施できた。
当初予測した物理環境の種間関係の帰結への影響は検出されなかったが、先行研究を踏まえると、それは局所集中的に放流された稚魚が極端な高密度状態を創り出すため、密度の影響が物理環境の影響をマスクしたためと考察された。予測とは反する結果であったが、合理的な考察ができたため、進捗状況の評価を下げることではないと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
野外調査で採取した水生昆虫の分析を進め、放流されたサクラマス稚魚が下位の栄養段階に与えた影響についても評価する。
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Causes of Carryover |
コロナウイルス問題のため参加を予定していた学会が中止となり、旅費を使わなかったこと、および当初野外調査はアルバイトを雇う予定であったが、所属機関の新規非常勤職員に補助を依頼できたため、謝礼が不要となったため。
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