2017 Fiscal Year Research-status Report
アルカリ化酵母とその酵素系による強酸性水圏中和の分子機構の解明
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16K07868
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Research Institution | Tokyo University of Marine Science and Technology |
Principal Investigator |
浦野 直人 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (90262336)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡井 公彦 東京海洋大学, 学術研究院, 助教 (00596562)
石田 真巳 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (80223006)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | アルカリ化酵母 / 強酸性水圏 / 中和 / 中性圏 / バイオリアクター / 酵素 / 中和活性 |
Outline of Annual Research Achievements |
アルカリ化酵母による強酸性水中和機構の解明の1つとして、当該酵母が強酸性水圏のみに偏在しているのか、他の中性やアルカリ水圏にも生息しているのかを調査した。特に大都市(横浜)近郊の中性淡水圏14ヶ所から、アルカリ化酵母の単離を試みた。単離した耐酸性酵母360株のうち、34株がアルカリ化能を保持していた。34株のアルカリ化酵母に関して、菌種同定を行ったところ、13属21種に分類された。また、ko-w20は酸性水圏である田沢湖由来のCryptococcus sp. T1と、sm-w39は強酸性水圏の吾妻川由来のPseudozyma tsukubaenzis CBS:6389と塩基配列が一致した。これらの結果から、アルカリ化酵母は広く中性淡水圏にも生息していること、種多様性を持っていることがわかった。更に、中性水圏由来のアルカリ化酵母の中和活性は、強酸性水圏由来のそれと同等の活性を持っていた。よって、アルカリ化酵母は、強酸性水圏と中性水圏のいずれにも生息しており、生息環境が酸性化した際には、細胞内外を中和する生存戦略を持っている可能性が示唆された。 さらに、アルカリ化酵母T1をアルギン酸ゲルビーズ内に包括固定化した。固定化酵母をカラムに充填して、酸性水(pH4)をカラムに流入したところ、pH7以上の中和水を連続的に生産するバイオリアクターを作成することができた。本リアクターによる製造水はアンモニウムイオン濃度が高いため、リアクターの下流にゼオライト充填カラムを設置した。両カラムを通した水はpH7以上であり、アンモニウムイオン濃度が1/10以下と規制値より低くなっていた。 更に、T1細胞から破壊抽出した粗酵素をアルギン酸ゲルビーズに包括固定化して、同様のバイオリアクターを作成した。固定化酵素は菌体より高い中和活性を示した。中和酵素がゲル内に安定的に固定化されていることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アルカリ化酵母による酸性水中和機構の解明に関する研究を行っている。 平成29年度はアルカリ化酵母が強酸性水圏に偏在するのでは無く、中性水圏でも生息しており、種多様性を持っていることがわかった。更に、両水圏では同種のアルカリ化酵母が生息していた。これらのことから、アルカリ化酵母の生息は水圏環境のpHに依存するのではなく、いずれの水圏の酵母でも潜在的にアルカリ化能を保持している酵母が生息していることがわかった。こうしたアルカリ化酵母は酸性環境下に置かれると、酸性水中和能を発揮することもわかった。 また、アルカリ化酵母をアルギン酸ゲルビーズ内に包括固定化すると、酸性水から連続的に中和水を製造できた。さらに、アルカリ化酵母を超音波破壊して得た抽出液をアルギン酸下ルビース内に固定化しても、同様に中和水を連続生産することができた。 これらの結果から、アルカリ化酵母菌体抽出液中には、酸性水を中和する酵素系が含有されている可能性が高くなった。本酵素系は特定できていないため、平成30年度に精製する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
アルカリ化酵母による酸性水中和の分子機構解析研究として、以下を行う。 1.アルカリ化酵母の生息圏の解明として、塩基性水圏での生息を調査する。こうして、酸性水圏、中性水圏、塩基性水圏の全水圏でのアルカリ化酵母の生態の全容を明らかにする。 2.アルカリ化酵母による酸性水中和に及ぼす、無機酸(塩酸、硝酸、硫酸等)有機酸(酢酸、乳酸、ギ酸、プロピオン酸等)などの酸種の影響を解明する。 3.アルカリ化酵母による酸性水中和反応を触媒する酵素系と遺伝子系を解明する。
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Causes of Carryover |
アルカリ化酵母の分子機構の解明に関する研究のうち、強酸性水中和反応を触媒する酵母系の単離・対応する遺伝子のクローニングに関する研究の進展がやや遅れている。 研究が遅れた原因は、アルカリ化酵母が常温で容易に溶菌しなかったため、菌体内の酵素を含む蛋白質を変成せずに抽出することが困難であったことによる。 2017年度の研究で、タンパク質の抽出が可能になったため、2018年度は当該酵素系の単離を行う計画である。 2017年度に使用しなかった研究費は2018年度に使用予定である。
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Research Products
(5 results)