2016 Fiscal Year Research-status Report
ヒラメエドワジエラ症の肝炎発生における肝門脈上流リンパ組織の関与
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16K07882
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Research Institution | Nippon Veterinary and Life Science University |
Principal Investigator |
倉田 修 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 教授 (90277666)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
坂井 貴光 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 増養殖研究所, 主任研究員 (50416046)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 肝炎 / 脾臓 / 炎症性メディエーター / エイコサノイド / 肝門脈血 / サイトカイン / ヒラメ / Edwardsiella tarda |
Outline of Annual Research Achievements |
1. E. tarda感染による肝臓近傍リンパ組織の活性化: ヒラメ(約12g)に対し、E. tarda NJB0401を用いて浸漬感染を行った(10の6乗 CFU/mL、10分間、22℃)。感染後4日~6日にサンプリングし、肝臓近傍リンパ組織(脾臓および腸管)における炎症性サイトカイン(IL-8、IL-1β、TNFα)の遺伝子発現について調べたところ、感染初期の脾臓では、腸管に比べIL-1β遺伝子の発現が著しく上昇していた。このことから、脾臓はE. tarda感染後早期に活性化され、肝臓を刺激する炎症性メディエーターを産生している可能性が示唆された。一方、腸管は早期の活性化が認められず、肝臓を刺激する炎症性メディエーターを産生するリンパ組織としては働いていないと考えた。 2. 肝門脈血の採取法: 脾臓で産生される炎症性メディエーターの肝門脈血への流入を調べるために、門脈血の採取法について検討した。体重約400gのヒラメにおける肝門付近の門脈を切断し、そこから流出した血液を毛細管で回収した。本法により1尾から約500 μLの血清が採取可能であった。 3. E. tarda感染ヒラメ脾臓におけるエイコサノイドの解析: エイコサノイドは生理活性を有する脂質メディエーターであり、炎症形成にも関与する。E. tarda感染初期のヒラメ脾臓におけるエイコサノイドの存在をLC-MS/MSにより解析し、サイトカインとは別の炎症性メディエーターの存在について検討した。上記同様に感染させたヒラメ脾臓(感染5日目)および正常ヒラメ脾臓を材料に解析を行った結果、試験区間で濃度に差のある成分(PGF2a、PGE2、11HETE、12HETE、等)が見つかった。このことから、脾臓におけるエイコサノイドの一部は感染により、その合成を変動させることが確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
肝臓の活性化を誘発する炎症性メディエーターの産生組織として脾臓を絞り込むことができた。脾臓における炎症性メディエーターの産生時期は感染後5日目付近で、同時期では肝臓におけるE. tardaは検出されないにもかかわらず、IL-8遺伝子の発現は確認される。すなわち、この時期の脾臓で産生される炎症性メディエーターが肝臓の活性化を誘発するものと予想された。今後、感染後5日目付近の脾臓に集中した解析が可能となったことで、研究を効率よく進められる。本年度、感染魚の脾臓における変化をサイトカイン発現だけでなく、生理活性脂質の合成についても解析することができた。いくつかの成分で変化が見られ、炎症性メディエーターの具体的な候補を見つけられた。肝門脈血清中の成分解析は年度末に取りかかり、現在、データを整理しているところであるが、脾臓で検出された成分との比較により、門脈血中の成分が脾臓由来のものであるかを考察する予定である。活性化に伴う脾臓組織の変化を今年度観察する予定であったが、サイトカイン遺伝子の発現および生理活性脂質の産生を評価した同一組織での観察を行うために、標本の準備を年度末に実施した。次年度、活性化した脾臓の総合的な評価が可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 肝門脈血清成分の解析: 感染初期ヒラメの門脈血清におけるタンパク成分の変動について調べ、タンパク系の炎症性メディエーターについて探索する。 2. 感染初期ヒラメの脾臓および肝臓の網羅的遺伝子発現解析: 生理活性脂質の解析に汎用性のある定量PCR法を応用するため、その代謝関連酵素の遺伝子を探索する。さらに、肝臓に関しては、活性化(IL-8発現上昇)に関連して見られるシグナル伝達因子を調べ、そのシグナルカスケードから実際に作用している炎症性メディエーターを予想する。 3. 肝門脈血清のIL-8遺伝子発現誘導能: 門脈血清中で観察された炎症性メディエーターが実際にIL-8の発現誘導能を有しているかin vitroの培養系で調べる。感作細胞には白血球、および非免疫細胞としてヒラメ鰭から樹立した細胞株(JFF07-1)を使用し、IL-8遺伝子の定量PCR法により評価する。 4. 感染後の脾臓における炎症性メディエーターの検出と肝臓における組織変化ならびにタンパク質変化の連動性: E. tarda感染後、脾臓におけるサイトカインおよび脂質代謝酵素遺伝子(生理活性脂質の産生を間接的に評価)の発現変動と肝臓における細胞・組織構造の変化および好中球の浸潤を比べ、脾臓で産生された炎症性メディエーターが肝臓を活性化させることについて考察する。肝臓では、構成タンパク質の構造変化についても調べ、分子レベルでの活性化について知見を得る。
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Causes of Carryover |
特価製品の購入などにより約8千円を節約した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の消耗品購入費用として使用する。
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