2017 Fiscal Year Research-status Report
農産物の市場価値を高める認証・表示制度の国際比較研究:途上国・移行国における検討
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16K07912
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
弦間 正彦 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (90231729)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 農産物 / 認証制度 / 表示制度 / 経済実験 / 経済価値 / 差別化 |
Outline of Annual Research Achievements |
環太平洋連携協定(TTP)と環大西洋貿易投資連携協定(TTIP)など多国間の地域的な経済協定や、FTAやEPAなどの二国間の貿易協定は、市場アクセスの改善のみならず、貿易・投資などに関する制度の共通化・手続きの簡略化などにより加盟国に長期的便益をもたらす。農産物に関しては、農業の持つ多面的機能が存在し、国内生産を継続することによる便益が存在することから、TPPや各種のFTA・EPAの貿易交渉に際しては、市場アクセスのみならず、国内生産物に付加価値を与え、輸入品と差別化を図ることを可能する、地理的表示制度、有機農産物などの認証制度、トレーサビリティ制度、検疫制度、知的所有権制度などの貿易相手国との制度の共通化が重要な交渉項目となってきている。 本研究は、中東欧諸国などの新規加盟国を含むEU現加盟国と、東南アジアの体制移行国・途上国・中所得国など1990年代に新規に加盟した国を含むASEAN加盟国の農産物・食料部門に焦点を絞り、地理的表示制度、有機農産物認証制度、トレーサビリティ制度、等級表示制度、検疫制度などの新たな導入に際して、それらの制度が必ずしも農産物・食料の市場価値を高めるに至っていない理由を検証し、これらの制度が農業発展と食料の安全保障に貢献するための条件を考察することが目的である。 先行的にこれらの制度を導入した国・これから導入しようとしている国の中でも途上国・移行国を対象に、これらの制度が持つ経済的な価値の定量化を、実験経済学の非仮説的オークション手法など複数の手法を使い消費者の顕示選好を検証する中で試みてきている。そして、その上でこれらの制度が最大の効果を発揮する条件を明確化し、我が国がこの分野で制度・政策を拡充していく上で有用な政策的含意を導入しようとしている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに、海外共同研究者(タイ・カセサート大学、ポーランド・ヴァルミア・マズーリ大学、ハンガリー・エドゥトス大学の研究者)から、情報・データ提供を受け、これらの国の食料経済、地理的表示制度を中心に認証・表示制度の発展の経緯について文章で取りまとめる作業を行った。その上で、聞き取り調査用の質問状、地理的表示(GI)制度の持つ経済価値を、タイにおいては2008年にGIに認証された東北地域で栽培されるジャスミン米の事例について、ポーランドにおいては、伝統的な食品に使用が認められている食品ラベルと、各種国内食品コンテストでの受賞食品に与えられる食品ラベルの持つ経済的価値について、加工チーズ食品の事例について、非仮想的な設定に基づく実験オークション法(現実の市場に近い状況をラボにおいてつくりだした上で被験者の支払意志額を入札額として観察する方法)を用いて、計測した。 分析結果はまとめられ、国際会議などで報告され、結果とそこから導入できる含意について討論された。国際学会誌にも投稿する準備が進められてきている。さらに、EUの新規加盟国(体制移行国)とアジアの中所得国における関係機関、組織、専門家に対して聞き取り調査を行い、また制度の抱える問題点や課題などについて横断的に理解を深化することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
対象国においては、異なった農産物・食品に関する認証制度が持つ経済価値について、分析を進める計画である。ポーランドにおいては、これまでのところ、市場における差別化が容易な伝統的な畜産製品に対する検証をおこなっていることから、差別化が難しい耕種生産に基づく農産物・食品を選んで、非仮想的な条件のもとオークション実験を行う計画である。 ハンガリーにおいては、複数の対象農産物・食品について、地理的表示制度に基づくものと基づかないものの両方についてその情報が持つ経済価値を被験者の顕示選好を理解することにより計測する。さらに、東南アジアにおいては、ラオスとベトナムにて、同様な経済実験と表明選好の検証によって地理的表示制度、有機農産物認証制度、トレーサビリティ制度、等級表示制度などがもつ経済価値を明らかにする作業を続ける。さらに、地理的表示制度、有機農産物認証制度、トレーサビリティ制度、等級表示制度を適用した場合の国内市場における支払い意志額(WTP)にどの程度のプレミアムが発生するのか、仮想的な状況を想定して支払意志額を推計する仮想評価手法(CVM)を利用しても確認する。さらに国際比較を行い、所得水準と食文化の違いが支払意志額に及ぼす影響について、考察を行う。異なった国の間で、支払意志額が有意に違う場合には、さらに、分析対象農産物・食品を広げて、調査にあたり、より一般化した結論が導入できるようにする計画である。
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Causes of Carryover |
ラオスとベトナムにおいては、GIに指定された農産物は少なく、認証・表示制度に対する認知度が低いが、昨年から発効したASEAN Free Trade Zoneなどへの加盟に伴い、今後食料経済における大きな変化が予想されることから、仮想的な設定の下で認証・表示制度の経済価値を計測するCVM手法による支払意志額の確認が、当初計画していた非仮説的アプローチより有用であることが、新規情報を収集をする中で分かった。ただし、CVMの実施のためには、社会主義国であるベトナムでは、現地の研究協力者が調査許可を、地域の関連機関から得る必要があり、この取得に時間がかかったため、翌年度にこれに関する本調査が実施されることなった。
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Research Products
(6 results)