2018 Fiscal Year Research-status Report
アントレプレナーエコシステム論を適用した福祉農業の展開過程の国際比較研究
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16K07923
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
坂本 清彦 龍谷大学, 社会学部, 准教授 (30736666)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 農福連携 / 福祉農業 / アントレプレナーシップ / ソーシャルファーミング / アセンブリッジ論 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は、スペイン及びフランスおよび米国にて、協同組合や非営利組織(NPO)として福祉農業・農福連携事業を展開する事例の調査を実施した。 スペインでは、1970年代に設立され、先進的なブドウ栽培・ワイン醸造事業を軸に福祉的農業を展開する労働者協同組合を調査した。組織設立者に加え地域内外の支援者とのネットワークや関連諸制度の織りなすアントレプレナーエコシステムのなかに、起業家的事業が展開されていることを見出した。同時に、異なる制度間の齟齬や矛盾を解消するための様々な運用努力が行われており、制度・技術の複合体(アセンブリッジ)という理論枠組みに基づく知見も改めて確認できた。 米国では、オレゴン州ポートランド市内及び周辺地域で活動する3つのNPO等を調査した。行政による制度支援が薄い中、慈善団体等からの寄付金を運用しながら、アルコール・薬物依存や矯正施設入所者等の社会復帰に福祉農業を活用する例等の聞き取りを通じ、日本や欧州と異なる政治・行政システム下における事業展開に関する知見を得た。 これら調査結果のうち、英語圏の地理学、農村社会学で注目されるアセンブリッジ論を適用してスペインの上記事例分析を試み、地域農林経済学会大会において報告した。すなわち、分析事例において農福連携の経営展開に必要な構成要素(技術や支援制度)をどう組み合わせて起業家的事業を可能としているかに加え、社会的ミッションの達成と経済性の両立といった構成要素間の生じる緊張関係がどのように処理、調整、あるいは不可視化されているかに分析の光を当てた。この分析結果は同学会学術誌に投稿する研究論文として執筆を進めているところである。 また、前年度実施したオランダでの調査成果を、全労災協会より共著報告書「農福連携事業による「効果」の実証について」にて他の事例調査成果と合わせて公刊した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
計画最終年度に現所属機関に転任し、新任地への適応や教育面での負担増が予想以上に大きく、年度後半に数度体調を崩したこともあり、計画通りに研究を進めることが困難となった。特に国内における調査が十分に実施できなかった。 他方、新任校での活動を通じて、勤務地に近くより実行性の高い調査対象が見つかったことから、国内での調査計画を見直し、2019年度に集中的な調査を行うこととした。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで十分に進んでいない国内事例の調査に注力する方向である。
新たな所属先(龍谷大学)において農福連携と地域づくりを主題とした大学―地域連携活動を立ち上げ、参画することとなり、当該プロジェクトの連携先であり障がい者の就労支援事業を実施するNPOに高い頻度で訪問し、継続的な聞き取りや参与観察を行える環境が整った。このため、最終年度前半から当該NPOを中心に調査を実施し、新規商品・サービスの企画から開発の過程を詳細に観察し、経営者やスタッフがどのように新事業に必要な技術を学び、開発し、必要な支援制度を組み合わせていくのか、その過程における困難性はどこにあり、それはどのように解消されるのかを明らかにしていく。また、新規事業を軌道に乗せていくにあたり、障がい者就労支援施設では避けて通れない、障がいなどを持つ利用者の新しい技術を習得支援がどのようにされているのかといった点についても、細かく観察を行っていく。 前年度から執筆を進めている研究論文を投稿するとともに、上記国内調査から得られた知見をまとめ、2019年度後半に学会報告を行い、投稿論文等として刊行を図る予定である。
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Causes of Carryover |
新所属校における授業等新業務の負担が予想より大きかったこと、2018年度後半に体調を崩したことで国内における事例調査が進まなかったことに加え、新たな所属先に近く調査実効性の高い事例を見出したことから、2019年度に国内調査実施を延期することとしたため。2019年度使用額のうち、一部は国内調査にかかる費用、書籍等の購入、投稿論文の掲載費等に充てるほか、海外での学会報告と現地調査に充てる予定である。
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