2019 Fiscal Year Research-status Report
木材流通からみる資本主義によるフィリピン山村部の掌握
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16K07928
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Research Institution | Kurume University |
Principal Investigator |
葉山 アツコ 久留米大学, 経済学部, 教授 (30421324)
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Project Period (FY) |
2016-10-21 – 2021-03-31
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Keywords | フィリピン / 採取的林業 / 育成的林業 / コミュニティによる森林管理 / 産業造林契約者 / 木材産業 / 非マルコス化 / 熱帯林 |
Outline of Annual Research Achievements |
木材流通からみる資本主義によるフィリピン山村部の掌握を明らかにすることを目的とする本研究のフィールド調査は、資本主義が山村部を掌握できずにいる実態を明らかにした。それを明確に示す数値は、1970年代半ばのピーク時に比べて近年の産業用丸太生産量と製材工場数の大幅な縮小である。それぞれピーク時の7%、3%にすぎない。採取的林業によって大幅に消失した森林資源(天然林)を森林再生(人工林造成)によって回復させることが期待されているものの、国有林地における人工林の育成的林業の展開は不発のままである。主な国有林地管理主体は、国有林地全体の10%を管理する国有林地管理コミュニティと同5%を管理する産業造林契約者である。これら二つの管理主体も含めて何らかの管理主体のもとにある国有林地は国有林地全体の40%であり、残りの60%はオープンアクセス状態にある。コミュニティによる森林管理制度下の国有林地管理コミュニティによる森林再生の問題は、持続性の欠如である。その最大の要因は、フィリピン農村社会が有する住民組織力と人工林の維持管理に期待される組織力とが合致しないことにある。一方で、産業造林契約者による森林再生は、資本主義による山村部掌握の典型的な形態と考えられる。しかし、産業造林契約者は、天然林の採取的林業を主導した伐採企業が天然林伐採(育成的林業の資本蓄積として許可された)を継続するために契約を切り替えたものであり、育成的林業への関心は低かった。育成的林業への関心の低さは、製材所の大幅縮小に象徴される木材産業規模の縮小にあるが、その背景には、マルコス大統領に牛耳られてきた育成的林業と決別するために木材産業規模縮小をむしろ国家的に容認してきたことにある。木材産業規模の縮小ゆえに、2011年に発令された全面的天然林伐採禁止令が人工林における育成的林業展開への追い風となっていない現状を確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究は資本主義によるフィリピン山村部の掌握を明らかにすることを目的としているが、フィリピンでのフィールド調査を進める中でわかってきたことは、前提としておいている資本主義による山村部掌握の程度が想定以上に低いという実態である。これは、マニラ首都圏で木材加工工場を中心に行なったフィールド調査では気づかなかったが、その後フィリピンにおける木材生産の中心地であるミンダナオ島北東部のカラガ地方で調査を進める中で資本主義による山村部掌握の実態が徐々がわかってきた。そのため、研究の中心課題をなぜ資本主義は山村部を掌握できていないのかを解明することに移した。カラガ地方での調査は、関連政府機関の地方事務所での資料収集から始めたが、本研究に有用な文書の量が驚くほど大量であったためそれらの分析に時間がかかってしまった。カラガ地方の木材加工産業への聞き取り調査時間は確保できたものの木材生産主体/人工林造成主体である個人やコミュニティに対する調査時間を取ることができないままである。さらにこれら個人やコミュニティの人工林造成主体に関する調査に加えて、人工林造成の重要な担い手として制度的に位置づけられながらもその活動が低迷している産業造林契約者の調査もする必要がある。それぞれ地理的に分散しているこれらの人工林造成主体に関する調査は時間がかかることが予想されるが本研究において必須であるにもかかわらず、現時点では進んでいない。本研究は、昨年度が最終年であったが、最終年の1年延長を申請した。本研究の進捗の遅さの原因は、上記の理由に加えて初年度の1年間を在外研究に費やし本研究に取り組むことができなかったことにもある。さらに昨年度末に1カ月程予定したフィリピンでの調査が新型コロナウイルスのためにキャンセルせざるを得なかったことも大きかった。
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Strategy for Future Research Activity |
上述したように本研究において現地での調査が進んでいない項目は、木材生産主体/人工林造成主体である個人やコミュニティおよび人工林造成の重要な担い手として制度的に位置づけられながらもその活動が低迷している産業造林契約者に関する調査である。それぞれに聞き取りをする必要があるが、地理的に分散しているため時間がかかる作業である。そこでまずは地理的に比較的集中して位置する個人やコミュニティに対して調査を進めていくことを考えている。産業造林契約者に関する情報は現時点でかなり限られているためまずは関連政府機関の本省にて情報収集を行いたい。夏期休暇および春期休暇をフィリピンでの調査に費やすことを予定している。しかし、最大の懸念は、新型コロナウイルスのために現時点でフィリピンへの入国が難しいこと、さらに入国が許可されたとしても2週間の外出・移動制限措置が取られているために現地調査が大幅に制限されることである。フィリピン政府のこのような対応は今後も継続する可能性が高く、その場合、今年度のフィリピンでの調査を断念せざるを得ない。そうなった場合には、現在日本にて文献調査を中心に進めている、資本主義がフィリピン山村部の掌握ができない理由をレントとレントシーキング に注目して解明する作業に時間を当てることを考えている。加えて、今まで現地調査にて収集した資料の分析も継続していきたい。本研究は今年度が最終年であるためフィリピンでの調査は念願であるが、それが叶わない場合は、文献調査によってできることを進めていく予定である。フィリピンでの情報収集は、可能な限り関連政府機関の本省へのメールでの問い合わせを利用することを考えている。
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Causes of Carryover |
本研究実施の初年度である2016年度は在外研究期間と重なり、本研究のためのフィールド調査を行うことができなかった。そのため、本研究にとって特に重要な人工林造成主体である個人やコミュニティへの聞き取り調査及び産業用木材生産契約者への聞き取り調査が出来ていない。本研究実施の最終年度であった2019年度末の1カ月程、フィリピンにてこれらの調査を行う予定であったが、新型コロナウイルスの影響で渡航を諦めざるを得なくなった。これらの調査を行うために1年間の研究期間延長申請を行い、認められた。2020年度は上記の遅れている調査をフィリピンにて行う予定である。ただし、フィリピン政府の新型コロナウイルス対策として国内移動制限が継続しているため、今年度、フィリピンにてフィールド調査の遂行が可能かどうかは不明である。現時点ではマニラ首都圏における調査も難しい。今年度、フィリピンへの渡航が不可能であることも考えて、現在は、本研究のために収集してきた文献の分析を中心に研究を続けている。フィリピンでのフィールド調査が可能となれば、できる範囲でフィリピンにて調査を行う予定である。
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Research Products
(2 results)