2017 Fiscal Year Research-status Report
国際競争力を持った低コスト大規模稲作実現のための水利システムの国際比較研究
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16K07936
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
石井 敦 筑波大学, 生命環境系, 教授 (90222926)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 水利費 / 大規模稲作 / 巨大区画水田 / 水利組織 / 従量料金制 / 水田灌漑 / 番水 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、大規模稲作が進展した水田地域における「土地改良投資が少なく、労力も要さない」低コストの用水管理方法として1)番水による渇水時対応、2)従量料金制による節水的灌漑、3)巨大区画水田整備による水利施設節減をあげ、日本国内の事例を調査・分析した。 1)の番水では、宮川用水地区(伊勢市)、明治用水地区(安城市)、西津軽土地改良区(つがる市)で事例調査を行い、節水手法としての番水を効率的に行う必要条件について検討した。番水時には通常よりも多い流量を間断的に配水する必要があるため、現行の連続的な灌漑よりも容量の大きい水路断面が必要になること、パイプライン化された水路では番水が困難化するおそれがあることが明らかになった。この成果は、H30年度の国際水田環境工学会で発表する予定である。 2)は、H28年度の三重用水地区に加え、新たに寺迫土地改良区(熊本市)の従量料金制について現地調査を行った。三重用水地区では集落を基本とするブロック単位で水利費が賦課されるが、年間400mmまでは定額で、それを超えると1mmあたり8円が加算されるため、いずれのブロックも基本料金以内に取水量を抑える傾向が確認された。一方、寺迫土地改良区では、水田1筆ごとに量水メーターをつけて水利費を賦課し、また、料金体系は基本料金なしで単価は1mmあたり20円と高い。1筆ごとの年間取水量のデータを得ることができ、今後、両地区の従量料金制の節水効果の比較検討を行う。 3)の巨大区画水田整備では、印旛沼土地改良区、河合地区等で現地調査を行い、5haを超える巨大区画水田の末端水利施設の削減の可能性と効果を分析して明らかにした。この成果は農業農村工学大会講演会で発表した。また、巨大区画水田整備を困難化している貸手農家の資産的土地所有とその対策について論考し、農業農村工学会誌および土地と農業に発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
日本国内における従量料金制および大規模経営による用水管理の分析に関しては、おおむね想定した通りの進捗状況と言える。すなわち、「研究実績の概要」の1)の番水については、ほぼ分析を終え、平成30年度に国際水田環境工学会で分析結果を発表する予定である。2)の従量料金制に関しては、三重用水土地改良区に加え寺迫土地改良区のデータを得ることができ、両者の比較分析から、節水に対してより効果的な従量料金制の料金体系に関する検討を行えるようになった。また、三重用水土地改良区の分析からは、受益農民および末端の受益農民組織の節水行動に関する知見を得ることができ、従量制の節水効果を確認することができ、論文として発表できるだけの知見を得ている。 また、3)では末端の水利施設の削減効果を明らかにできたことに加え、現在日本国内でこれが進捗しない要因と対策について分析し、圃場整備の換地手法によって巨大区画水田を受け入れる農家の土地を集団化することで、巨大区画水田を創出できる可能性があること等を指摘した。これらはすでに学会誌等に成果を発表している。 一方、当初予定していた豪州の大規模稲作経営体の用水管理と、そこに送水する灌漑組合の用水管理については、現地調査を行えなかった。昨年発症した左耳の突発性難聴のため、年度前半は聞き取りに不安があり出張をひかえ、後半は日本国内の聞き取り調査を重点的に行ったためである。豪州の灌漑組合および大規模稲作経営体の用水管理については、文献資料等により、調査対象としているコリアンバレー灌漑組合の水利費や職員構成等の基本的なデータは得たものの、実際の用水管理のデータを得ておらず、今後、調査が必要である。 以上より、進捗状況は「やや遅れている」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
国内の水田灌漑管理については、従量料金制をとっている三重用水土地改良区および寺迫土地改良区で得られた前記のデータの分析を行い、従量料金制がダム貯水使用量等の節減に効果があったかどうかの検証を行う。また、大規模稲作経営体による農業がすでに実現している地区(秋田県大潟村および福井市河合地区、印旛沼土地改良区等)を対象に、大規模経営体の用水管理の実態と、そこに送水する土地改良区の経常経費について分析を行う。 また、巨大区画水田整備を困難化している土地所有者の資産的土地所有の実態と、担い手と土地所有者の利益配分についても、福井県の大規模集落営農地区等を対象に調査分析を行う。 海外の水田灌漑管理についても、現地調査を行う。現在、左耳の聴力は回復していないものの、症状が安定したため4月から補聴器をつけ、日常生活には支障がないため、現地調査を行う。一部の行程に通訳者をつけることで、聞き取り調査を行うことは可能である。 まず、H29年度に実施できなかったオーストラリアの大規模灌漑地区および大規模経営体の用水管理に関する現地調査を行う。コリアンバレー灌漑組合では、現在、従量料金制の経常経費賦課方式をとりやめており、その背景要因に関する聞き取り、分析を行う。また、灌漑組合のレポートから、「需要主導型」で節水をこころがけているとの情報を得ており、大規模経営体から配水の指示を受けてからの送水オペレーションと、送水のための水利施設に関しても聞き取り調査等を行う。 また、豪州のケースと比較検討するために、アメリカ等の大規模稲作経営体および大規模灌漑区に関しても、用水管理の実態と灌漑区の財政状況、受益地への送水方法に関する聞き取り調査を行う。加えて、近年進みつつあるモンスーンアジアおよびアフリカの水田圃場整備地区の用水管理に関しても、基本的な情報を取得する。
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Causes of Carryover |
平成28年12月に発症した左耳の突発性難聴のため、H28年度末に予定していたオーストラリア調査が行えず、53万円をH29年度に繰り越した。H29年度にその分のオーストラリア調査を行うことを想定していたが、聴力が回復せず、英語での聞き取り調査に不安があったため出張をひかえた。そのため、H29年度に当初から予定していた米国調査およびオーストラリア調査に対応する旅費と人件費・謝金分が残った。 オーストラリアの灌漑組織および大規模経営体の現地調査は、本研究の主要をなす部分の一つであり、平成30年度に行う。現地までの渡航旅費、滞在宿泊費、レンタカー使用量、運転手・ガイドの費用等に「次年度使用額」を使用する。現在、左耳の聴力は回復しておらず、英語での聞き取り調査がやや困難になっているが、現地ガイドに通訳者を付けることで対応し、聞き取り調査等が行う予定である。また、米国についても、同様の調査を行う。国内の大規模稲作農家と大規模水田灌漑地区の調査も合わせて行う。 海外調査は通訳者を雇用することで、10日間程度の渡航1回の旅費・人件費は80万円程度になるため、H29年度の使用残額とH30年度交付予定額とを合わせ、2回の海外調査と、5回程度の国内調査等を行うことに交付金を使用する。
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