2017 Fiscal Year Research-status Report
浅層地下水における密度流の非線形性についての多角的解析
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16K07971
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
竹内 潤一郎 京都大学, 農学研究科, 助教 (20362428)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | パーコレーション理論 / フィンガリング現象 / 格子ボルツマン法 / 非混合性流体 / 間隙ネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
多孔質媒体内における非混合性流体の侵入実験について,間隙ネットワークにおけるインベージョンパーコレーションというモデルにより再現実験を行った.本実験においては,侵入・被浸入流体間の圧力の大きさに応じて,侵入様式がフィンガー状の侵入から一様侵入へと変化することが知られており,実験においても圧力差を大きくすることにより変化することが確認された.パーコレーション理論に基づいたモデルを用いた解析から,多孔質媒体内に形成される間隙のサブネットワークは,圧力差に応じて形状が変化していくことが確認された.特に,侵入可能なクラスタが連結してネットワークを形成し始める浸透閾値を超えた付近において,ネットワークは自己相似形を呈することが知られており,その時の侵入形状がフィンガー状になることが示された.その成果について,国内・国外の学会において発表を行った. 上述のモデルは,空間的にも時間的にも離散モデルであり,計算負荷が比較的小さく,間隙のネットワークとしての本質にせまるモデルであると考えられるが,いわゆる偏微分方程式に基づいた物理モデルではない.そこで,Navier-Stokes方程式に基づいた同様の検証を行った.具体的には,格子ボルツマン法を用いて二次元の流体の移動をモデル化した.本モデルを用いて,2相流体の平板間流れや滴の形成,毛管現象といった基本的な現象の確認を行い,疑似多孔質媒体モデル内での非混合性流体の侵入現象を計算した.非混合性流体間に与える圧力差に応じて,選択的な侵入と一様侵入が確認され,その成果を学会で発表を行った. さらに,間隙ネットワークを用いた侵入現象に関連して,乾燥した多孔質媒体に水が浸入する浸潤過程において,パーコレーション理論における浸透確率という概念を用いることにより,様々な水分保持特性を持つ多孔質媒体を統一的に扱うことができることを示し,国際学会で発表した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
塩水を用いた密度流に関する室内実験に関して,侵入する塩水の濃度が高く密度流が生じる際に,数値実験では単振動的な塩水浸入が起こることが示されていたが,実験では振動現象は見られたが,安定した振動ではなく不規則な振幅の侵入が見られた.実験装置を確認したところ,塩水が水槽に浸入する前の流入タンク内で密度流が生じており,一様な侵入となっていないことが判明した.そのため,流入タンク内の透水性を下げるという改良を行い,一様侵入が起こるようにして同様の実験を行ったが,不規則な振動が見られた.このことは,本研究にとって本質的な問題である.すなわち,不規則な振動がカオス的な振動であるのか,またどのようにして不規則な振動が発生するのか,そのダイナミクスを調べるという新たな問いについて研究することとした.そのため,当初計画していた塩水と温度による密度流という複雑な問題に取り組むより,この問題を深く追求すべきであると判断する. 本年度は,格子ボルツマン法を用いた非混合性流体の二相流れについて取り組んだため,密度流の安定性についての解析やHele-Shaw流に関する数理モデルに関する数学的検討については,基礎的な理解にとどまり個別の案件に対する検討までいたっていない.なお,Hele-Shaw流に関しては,境界要素法,代用電化法を用いた数値計算モデルの開発を始めており,表面張力による界面の後退については再現している. また,自励現象の例として挙げた管水路における圧力振動の発生について検討した結果,その原因は管水路に導入された減圧弁であり,その働きについて新たな定式化をする必要があることが判明している.
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Strategy for Future Research Activity |
塩水浸入による密度流に関する実験を引き続き行う.得られる塩分濃度(電気伝導度)に関するデータについて,時系列解析を行うためには少なくとも数十から百程度の振動が必要となる.そのため,より長時間の実験を行う必要がある. 密度流の計算モデルに関して,現在は無次元化したモデルであり,透水係数や密度差などをまとめた無次元数であるレイリー数を用いて解析を行っているが,実際の単位系のモデルに変換し,分散係数の影響や多孔質媒体の不均一性の影響を調べる.また,分岐の開始や安定性,収束性などの数学的検討も進める. 格子ボルツマン法を用いた非混合性流体の二相流れに関して,CUDAを用いた並列化を行う.当初はXeon Phiを用いた並列化を予定していたが,NVIDIAのグラフィックボードを用いたCUDAのほうが一般的であるためこちらを採用することとした.これにより,より広い領域を対象としたり,3次元を対象とした計算を行うことが可能となる. また,多孔質媒体における排水過程に関しても,浸潤過程と同様にパーコレーション理論を用いた解析を行う.浸潤過程では,比較的大きな間隙であるPB(Pore Body)によって水の侵入が規定されるので,ネットワークにおける浸透現象としてサイト過程として扱うことができる.排水過程は,PBをつなぐ比較的小さな間隙であるPT(Pore Throat)によって空気の侵入は規定されるので,ボンド過程としてモデル化できる.また,間隙の空間分布についても解析を行う.
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Causes of Carryover |
当該研究は基金であるため,年度内に必ずしも使い切る必要がないため. 次年度の物品費として使用する予定.
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