2018 Fiscal Year Research-status Report
複雑な細胞集合構造体(ウシ卵丘卵子複合体・ラット膵島)の保存技術開発
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16K07985
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
保地 眞一 信州大学, 学術研究院繊維学系, 教授 (10283243)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 超低温保存 / 糖尿病治療 / 妊孕性温存 |
Outline of Annual Research Achievements |
ラット膵ランゲルハンス島 (膵島) の超低温保存に関する研究を重点的に展開した。新規凍害保護物質 (CPA) としての可能性が示唆されているカルボキシル基導入ポリリジン (CPLL) のラット膵島に対する効果を調べ、その限定的有効性を示す実験結果をとりまとめた論文がCryobiology誌に受理された (Nakayama et al., 2019)。
CPLLのラット膵島に対する凍害保護効果に関する研究成果の概要は以下の通りである。30%エチレングリコール (EG) を細胞膜透過型CPAとして含有するラット膵島用のガラス化保存液 (Yamanaka et al., Cryobiology誌, 2016) において、細胞膜非透過型のCPLLを20%の濃度で添加すると、加温後の膵島蘇生率が有意に改善された。EGの一部たりともCPLLで置換することはできず、15% DMSOと15% EGからなるガラス化保存液に対してCPLLを添加しても蘇生率改善には無効だった。一度に10個の膵島をガラス化するクライオトップデバイスだけでなく、50個の膵島を一括処理できるナイロンメッシュデバイス (Yamanaka et al., Biopreservation & Biobanking誌, 2017) を用いたときもCPLLが持つ凍害保護の補填効果は発揮された。
ウシ卵母細胞の超低温保存に関する研究では、成熟卵母細胞 (M-II期卵子) のガラス化保存におけるナイロンメッシュデバイス適用の可能性について、2018年9月の第111回日本繁殖生物学会でポスター発表を行った。その他、共同研究成果として、論文3編 (Masaki et al., Stem Cell Reports誌, 2018; Chung et al., Animal Biotechnology誌, 2019; Goto et al., Nature Communications誌, 2019) と著書1編 (Hirabayashi & Hochi, Methods in Molecular Biology Bookシリーズ, 2019) を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ウシ卵丘卵子複合体のガラス化保存に関する研究テーマの進捗においては、平成28年度に大きな飛躍 (第57回日本卵子学会における優秀発表賞の受賞、ならびにTheriogenology誌への投稿論文の一発アクセプト) があったものの、本年度は学会発表1件にとどまった。しかし、ラット膵島の超低温保存に関する研究テーマにおいては、平成28年度 (凍結保存法よりもガラス化保存法が膵島の超低温保存に向いていることを実証)、平成29年度 (大容量ガラス化保存用のナイロンメッシュデバイスの開発に成功) に続き、本年度も膵島に対してCPLLが持つ限定的凍害保護効果を論文として公表することに成功した (Cryobiology誌)。この結果は、第66回日本実験動物学会 (2019年5月、博多) において発表する予定になっており、膵島移植による糖尿病モデルラット治癒効果の結果も第56回国際低温生物学会年会 (2019年7月、サンディエゴ) に発表エントリーしている。この他にも共著論文3編、連名著書 (MIMB) 1編を残した。
よって、「おおむね順調に進展している」と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
ウシ卵丘卵母細胞複合体 (COC) のガラス化保存に関する研究テーマでは次年度 (最終年度)、大容量化用デバイスの開発においてナイロンメッシュの至適孔径を決定し、汎用性の高い卵子保存プロトコールの作成を行う。さらに、抗酸化作用を持つポリフェノール類の一種、レスベラトロールが、加温後の回復培養液へ添加することによって、体外受精や発生培養を経て作製できる胚盤胞の量ならびに質を改善できるかについて、結論を出す。
ラット膵ランゲルハンス島 (膵島) のガラス化保存に関する研究テーマでは、ストレプトゾトシン投与によって糖尿病誘発したモデルラットの腎皮膜下へ膵島移植を行い、ラット血糖値の正常化度合いに基づき、ガラス化デバイスごと移植する膵島の糖尿病治癒に対する機能を調べる。このとき用いるナイロンメッシュに代わるデバイスとは、生体適合性の高い材料 (シルクフィブロインフイルムあるいはシルクフィブロインシート) を指しており、移植膵島の生着を助ける血管新生作用を期待して、血管内皮増殖因子 (Vascular Endothelial Growth Factor:VEGF) あるいは真空加圧含浸法により調製した肝臓の脱細胞化組織 (Acellular ECM:aECM) を共移植する。肝臓由来あるいは膵臓由来のaECMの存在下でラット膵島のガラス化耐性が変化するかという点も興味深く、In vitroでの生存率評価やインスリン分泌能評価を行う。
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Research Products
(8 results)