2018 Fiscal Year Research-status Report
ブタ卵の体外成熟に伴う透明帯の硫酸化修飾に起因した多精子受精抑制技術の確立
| Project/Area Number |
16K07992
|
|---|
| Research Institution | University of the Ryukyus |
|---|
Principal Investigator |
建本 秀樹 琉球大学, 農学部, 教授 (70227114)
|
|---|
| Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
| Keywords | ブタ体外受精 / 透明帯 / 糖タンパク質 / sulfatase / arylsulfatase A / 多精子受精 / 先体反応 |
|---|
| Outline of Annual Research Achievements |
これまでの研究で，ブタ卵透明帯構成糖タンパク質の硫酸化糖鎖は，精子先体部に存在するarylsulfatase A (ARSA)と結合し受精時の精子－透明帯間の相互作用に関与しており，透明帯に結合した精子のプロアクロシン活性化により惹起される先体反応の誘起に伴った精子と透明帯との二次結合に影響を及ぼしていることが明らかとなった。そこで，本年度の研究では，sulfataseで透明帯構成糖タンパク質を脱硫酸化処理，またはARSA blocking peptide (ARSA-BP)を体外受精(IVF)培地に添加することによって，両処理が卵活性化後の透明帯に対して如何なる変化を及ぼすか否かを検証した。
本研究には，卵巣から採取した卵丘細胞卵子複合体(COCs)を体外成熟培養し，IVF前に卵丘細胞を裸化して実験に用いた。その結果，IVF前に5 mU/mL sulfataseで10分間処理した区では精子侵入は阻害されずに多精子受精のみが有意に抑制され，透明帯結合精子数ならびに先体反応誘起率も有意に低下した。さらに，sulfatase処理の有無に関係なく，卵活性化後の透明帯のプロテアーゼによる溶解時間は顕著に延長し，透明帯構成糖タンパク質のZP1とZP2バンド検出強度は減少した。次に，5 ng/mL ARSA-BP添加培地でIVFを行った結果，精子侵入率は低下せずに多精子受精が有意に抑制された。また，無処理区とARSA-BP処理区の間で，卵活性化に伴った透明帯の経時的変化に違いは検出されなかった。さらに，sulfatase処理およびARSA-BP処理はIVF後の胚発生能への悪影響は認められなかった。
本研究結果から，透明帯構成糖タンパク質の硫酸化糖鎖と精子ARSAに着目することで，精子侵入率を維持したまま高頻度に起こる多精子受精を効果的に抑制することを明らかにした。
|
| Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ブタに対して繁殖工学技術を有効に活用する上において，大きな妨げの1つとしてIVF時に高頻度に起こる多精子受精が挙げられる。したがって，研究環境の違いによる影響を極力抑えつつ多精子受精を効果的に抑制する新しいIVF法を確立することは非常に重要である。
これまでの研究により，透明帯構成糖タンパク質の硫酸化が高頻度に起こる多精子受精に関与しているか否かを確認する目的で，IVF時に卵をsulfataseで前処理し透明帯構成糖タンパク質の脱硫酸化を行った。その結果，sulfataseによる脱硫酸化処理は胚発生能に悪影響を及ぼさずに多精子受精を効果的に抑制した。次に，精子ARSAと透明帯構成糖タンパク質の硫酸化残基との結合に着目し，IVF時に5 ng/mL ARSA-BPでARSAと透明帯硫酸化糖鎖残基との結合を阻害したところ，受精パラメーターの内，多精子受精率のみが顕著に低下した。そこで，卵活性化後の透明帯構成糖タンパク質の変化にsulfataseやARSA-BPが影響を及ぼすか否かを検証したところ，sulfatase処理卵の透明帯では，卵活性化後3時間に無処理区と比較して透明帯の硬化が強化され，卵活性化3.5時間以降にはビオチン化標識したZP1およびZP2バンドが有意に減少した。一方，無処理区とARSA-BP処理区の間では，卵活性化に伴った透明帯硬化現象および透明帯の構成糖タンパク質のZP1とZP2のバンドの消失に違いは検出されなかった。
すなわち，透明帯構成糖タンパク質の硫酸化糖鎖と精子ARSAに着目することで，胚発生に悪影響を及ぼさずに多精子受精を効果的に抑制するIVF法の確立に期待が持たれる．したがって，本研究を遂行するに当たって，研究は順調に進展していると考えられる。
|
| Strategy for Future Research Activity |
これまでの結果から，透明帯の硫酸化糖鎖は精子先体部のARSAと結合し先体反応誘起に関与していることが明らかとなった。しかも，この透明帯硫酸化糖鎖へのARSAの結合をsulfatase処理やARSA-BP処理により阻害すると，多精子受精が効果的に抑制されると云った新たな知見が得られた。そこで，sulfatase処理やARSA-BP処理の透明帯への影響を，単為発生卵透明帯のプロテアーゼ抵抗性およびビオチン化標識した透明帯構成糖タンパク質のZP1とZP2バンドの検出強度を調べた。その結果，活性化処理後の時間経過に伴って透明帯のプロテアーゼによる溶解時間は顕著に延長し，透明帯構成糖タンパク質のZP1とZP2バンド検出強度は減少した。しかし，sulfatase処理卵の透明帯では，卵活性化後3時間に無処理区と比較して透明帯の硬化が強化され，卵活性化3.5時間以降にはビオチン化標識したZP1およびZP2バンドが有意に減少した。したがって，sulfatase処理が透明帯硬化や透明帯構成糖タンパク質の過敏な変化と云った別の作用機序を介して多精子受精抑制を引き起こしている可能性も考えられる。
そこで本年度は，ブタ卵巣の小卵胞から切開法で採取した卵丘細胞卵子複合体(COCs)を44時間の体外成熟培養後にCOCsの卵丘細胞を除去し，裸化卵に0，10，30および60分間の5 mU/mL sulfatase処理を施す。その一部にIVFを行い受精パラメーター，透明帯結合精子数，および透明帯に結合した精子の先体反応誘起率を調べる。また，残りの裸化卵に直流電気パルスによる活性化処理を行い，これら卵から透明帯を経時的に分離し透明帯構成糖タンパク質にビオチン標識を行いECL法で解析し，卵活性化に伴う透明帯構成糖タンパク質の変化にsulfataseによる脱硫酸化処理が影響を及ぼしているか否かを追究する。
|
| Causes of Carryover |
機器の老朽化に伴い，次年度は，急遽，IVFに用いる凍結精子作成時に必要なプログラム恒温水槽 (EYELA, NCB-3100)の購入を主な研究費の使用用途として計画している為，次年度使用額が生じた。
|
