2016 Fiscal Year Research-status Report
皮膚における抗炎症作用に着目したダチョウ脂質中の新規機能性分子の解明
Project/Area Number |
16K08006
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
河原 岳志 信州大学, 学術研究院農学系, 准教授 (30345764)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ダチョウ / 皮膚角化細胞 / TLR10 / TLR2 |
Outline of Annual Research Achievements |
市販ダチョウ肉をホモジナイズしてBligh-Dyer法により脂質の抽出を行い、ウシ血清アルブミンならびにシクロデキストリン(CD)で可溶化させた。炎症誘導時の角化細胞遺伝子発現に及ぼす影響を評価するため、ヒト皮膚角化細胞株HaCaTの培養系に可溶化した脂質を添加して培養後、TNF-α刺激により炎症性遺伝子発現の誘導を行い、自然免疫・アレルギー・皮膚の物理的バリアに関係する462遺伝子の発現に及ぼす影響について網羅的解析を行った。 HaCaT細胞はTNF-α刺激によってケモカイン類やマトリックスメタロプロテアーゼ類などに顕著な誘導が観察された。しかしながらダチョウ油の添加によって、これらの誘導された遺伝子発現に対する抑制作用は観察されなかったことから、作用機構としてTNF-αの作用に対する直接的な抑制作用はないものと考えられた。一方でTLR10やUnc93 homolog B1(Unc93B1)などTLRのシグナルを調整する作用が報告されている遺伝子に顕著な発現増強が確認された。最も発現誘導作用がみられたTLR10に着目し、遺伝子発現の誘導がタンパク質レベルで影響を及ぼしているかをフローサイトメトリー法で確認したところ、HaCaT細胞の表面においてはTLR10発現レベルが非常に低く、ダチョウ油の機能性を評価することが困難であると判断された。そこでヒト成人正常角化細胞であるHEKa細胞を入手し、検討を行ったところ、十分な発現が確認できた。さらにダチョウ油をHEKa細胞に作用させることで、TLR10発現細胞の割合が有意に増加することが明らかとなった。 この作用に関わる脂質成分を明らかにするために、CDで選択的に可溶化させたダチョウ脂質でTLR10発現誘導作用をみたところ、脂肪酸などを幅広く可溶化するγ-CDで可溶化時にBSA可溶化時と同様の顕著な誘導作用が確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
市販ダチョウ肉からの脂質画分の調製については、研究計画に示したBligh-Dyer法により脂質の抽出を行うことができた。これを可溶化する手段としてウシ血清アルブミンを用いた可溶を行い、目的とする可溶化物を得ることができた。またCDの包接作用を利用した可溶化についても検討を行い、α-CD、メチル化β-CD、γ-CDのいずれにおいても可溶化物が得られることを確認した。 HaCaT細胞の炎症性応答に対するの効果の検討については、TNF-αによる刺激下における免疫学的応答ならびに皮膚バリア維持応答に関わる遺伝子の発現について網羅的な解析を行った結果、TLRのシグナル伝達を抑制的に制御する遺伝子の誘導作用を見出すことができた。またTLR4を介した刺激には十分な応答性はみられなかった。この検討においてHaCaT細胞だけではなくヒト成人正常角化細胞(HEKa)細胞を用いた検討も取り入れた。 炎症シグナル伝達分子における影響の評価については、遺伝子発現解析の結果よりTLR10の発現誘導作用が見出され、標的候補分子が細胞表層に発現する受容体であったため、フローサイトメトリー法での確認を行った。TLR10はTLR2の作用を制御する作用が報告されているため、グラム陽性菌への炎症性応答の制御という視点から、新たな抗炎症作用の可能性を示唆する成果を得ることができた。 マスト細胞との共培養試験も視野に入れて条件検討を進めているが、すでに角化細胞単独培養系において抗炎症作用を示唆する結果が得られつつあるため、本研究の全体の目標としてはおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度はダチョウ油の添加により誘導がみられた因子に対して、活性成分の絞り込みと作用条件を明らかにするための検討を進めていく。CDを用いた可溶化試験において脂肪酸の関与を示唆する結果が得られているため、ダチョウ油に含まれる脂肪酸標品を入手し、影響がみられた分子の誘導作用における関与を明らかにする。特に機能性分子と謳われているパルミトレイン酸とそれによって構成されるトリグリセリドであるトリパルミトレインの関与については重点的に検討を行う予定である。 研究計画においてはHaCaT細胞におけるmiRNAを介した炎症抑制作用メカニズムの解析を行う予定であったが、178種類のmiRNAを対象とした予備解析を行ったところ、抗炎症作用が報告されているいずれのターゲットにも有意な発現誘導は観察されなかった。この結果を受け、条件を変えた検討においても誘導がみられなかった場合は現在活性を見出しているタンパク質分子の解析を計画の中心に据えて検討を進めていく予定である。 CDによる選択的可溶化による検討では、低分子脂溶性成分やコレステロールの可溶化画分にはほとんどTLR10発現誘導活性はみられず、脂肪酸を含む幅広い分子を可溶化できるγ-CDによる可溶化物に活性がみられた。脂肪酸やトリグリセリドは高純度の標品が購入可能であるため、パルミトレイン酸を含むダチョウ脂質中の主要脂肪酸ならびにそれらの脂肪酸で構成されるトリグリセリドを入手して、各CDを用いた可溶化物による活性評価と分画操作における挙動比較により、抗炎症活性への関与を明らかにしていく予定である。
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Research Products
(4 results)