2016 Fiscal Year Research-status Report
筋肉内の遊離脂肪酸が味蕾細胞の味応答および霜降り肉の呈味性に及ぼす影響
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16K08007
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
山之上 稔 神戸大学, 農学研究科, 准教授 (30182596)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 牛肉 / 筋内脂肪 / 遊離脂肪酸 / 黒毛和種牛 / 呈味性 / 味蕾細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
牛肉のおいしさでは筋内脂肪量が重要視されている。筋内脂肪が多く霜降り肉として美味しさが知られている黒毛和種牛肉の呈味要因を、肉中の遊離脂肪酸との関連性から明らかにすることを目的としている。 本年度は、牛肉のおいしさに関連する筋内脂肪が,熟成および加熱調理によりどのように変化するかを明らかにすることであった。ヒトが黒毛和種牛肉を咀嚼したとき口腔に拡がる肉汁を調製し、摂取時までの影響要因として考えられる熟成および加熱による肉汁中の遊離脂肪酸の量的・質的変化を分析した。黒毛和種牛肉の第6~第7肋骨間ロース部を4℃で保存し、と畜後7、14、および28日目にロース芯から筋肉片を採取し、試料とした。黒毛和種牛肉との比較のためにホルスタイン種牛肉を入手し、同様に分析した。また客観的な評価手法である味覚センサーを用いる味認識装置で各肉汁試料の呈味性を機器分析し、さらに牛肉汁の呈味性をパネルの嗜好型官能評価により調べた。 肉汁中のトリアシルグリセロールおよび遊離脂肪酸を定量し、熟成および加熱による量的変動を調べた結果、黒毛和種牛肉から調製した肉汁中の遊離脂肪酸量は熟成により増加し、加熱処理はそれらの変動にそれほど影響しないことを明らかにした。また両脂質クラスの脂肪酸組成は異なることが明らかになった。一方、ホルスタイン種牛肉汁中の遊離脂肪酸量の熟成による顕著な増加は認められないことが判った。味覚センサー分析および官能評価による手法で、黒毛和種牛肉汁の旨味値はホルスタイン種牛肉汁より高値であることが明らかになった。またホルスタイン種肉汁の未加熱および加熱の両試料で味に深みを与える苦味雑味値が上昇した。味覚センサーによる肉汁の呈味性測定では肉汁の調製方法により各味要素の値が変わることが示され、前処理法の確立が必要なことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の研究計画における主要な目的は、呈味性に優れた黒毛和種牛肉と比較のためにホルスタイン種牛肉を試料として一定期間熟成後の未加熱および加熱牛肉汁中の脂質クラス、特に遊離脂肪酸の変動を明らかにすることであり、おおむね達成されたと考えられる。 すなわち、黒毛和種およびホルスタイン種牛肉のロース部を4℃で貯蔵し、経時的に採取した牛肉片を熟成未加熱牛肉試料とした。熟成中に経時的に採取した未加熱および加熱牛肉から、牛肉咀嚼中に口腔に拡がる肉汁に該当する材料として筋漿画分を調製し、肉汁試料とした。肉汁試料中のトリアシルグリセロールおよび遊離脂肪酸を市販の定量キットで定量した。また。肉汁試料からタンパク質を除去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー法で各脂質クラスを分離・精製し、メチルエステル化後、ガスクロマトグラフィーで脂肪酸組成を分析した。また肉汁試料の呈味性をAAE、CT0、CA0、C00およびAE1の旨味、塩味、酸味、苦味雑味、渋味の程度をそれぞれ検出する味覚センサーで分析し、肉汁の呈味性の特徴を示す味要素の分析値を得ているが、肉汁試料の前処理が分析値に影響するという課題が新たに生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、熟成および加熱による肉汁中の遊離脂肪酸増加の要因として黒毛和種牛肉汁および比較のためのホルスタイン種牛肉汁中の脂肪分解酵素リパーゼの活性を測定し、遊離脂肪酸の組成および量的変動の解明に資する。また熟成中の牛肉では肉汁に増加する遊離脂肪酸以外に、呈味物質であるグルタミン酸やイノシン酸および各種の有機酸の増加とそれらの影響が考えられるので、熟成および加熱による両牛肉肉汁中の呈味物質を定量し変化を分析する。さらに牛肉汁の前処理法を検討し、最適な方法を見出す。確立した方法で調製した肉汁試料の呈味性を味覚センサー分析および官能評価で明確にする。以上の分析で得られる結果を主成分分析等の統計的手法で解析し、熟成中に黒毛和種牛肉の肉汁に増加する遊離脂肪酸の量的や組成の特徴と肉汁の呈味性との関連性を明らかにする。 牛肉のおいしさと肉汁中の遊離脂肪酸の関連性が明らかになった場合に、遊離脂肪酸の呈味への影響を直接的に明らかにする。舌上で味を化学的に受容する味蕾細胞におけるシグナル伝達系は、甘味、苦味および旨味の呈味物質と結合するGタンパク質共役型受容体であるガストデューシンを刺激する。従って、マウスの舌から採取した味蕾細胞の初代培養細胞、あるいはサブセットを使用して牛肉肉汁および筋内遊離脂肪酸の添加刺激の結果から得られるガストデューシンを仲介とするCa2+応答をリアルタイムCa2+イメージング法で解析することで、味蕾細胞の呈味シグナルへの遊離脂肪酸の直接的影響を明らかにする。 以上の結果から、筋肉内の遊離脂肪酸が味蕾細胞の味応答および霜降り肉の呈味性に及ぼす影響を解明する。
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Research Products
(7 results)