2017 Fiscal Year Research-status Report
ネオスポラ症をモデルとした経口投与型藻類クラミドモナスワクチンの作出
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16K08033
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Research Institution | Nippon Veterinary and Life Science University |
Principal Investigator |
池 和憲 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 教授 (50159597)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | Neospora caninum / ワクチン / 経口投与 |
Outline of Annual Research Achievements |
ネオスポラ症は、細胞内寄生原虫Neospora caninum感染に起因する疾患で、牛では母牛における死・流産および先天感染新生牛の神経・筋疾患、犬では幼犬の後駆麻痔を主徴とする進行性の神経・筋疾患である。本症伝播で問題となるのは、 ①非妊娠時の原虫感染による宿主体内での増殖と分布(タキゾイトによる水平感染)、とそれに続く②妊娠時の原虫感染あるいは妊娠等の刺激が誘因となるシスト内原虫(ブラディゾイト)の再活性による垂直感染である。以前の研究で①水平感染に対してはThl型免疫が、②垂直感染に対してはTh2型が有効であることを明らかにし、①に対してはThl型アジュバントを用いた注射型ワクチンが、②に対しては藻類経口投与型:試作ワクチンに誘導されたTh2型免疫が効果的であることを明らかにし、経口投与型の藻類ワクチンの可能性を見いだした。 本研究の目的は、クラミドモナスを用いた藻類ワクチンの(a)粘膜アジュバントおよび発現抗原遺伝子のコドンの最適化、(b)宿主藻類培養条件による蛋白発現の最適化、そして(C)経口投与型ワクチンとしての局所免疫および全身免疫誘導におけるワクチンプログラムの最適化、をすることで更なるネオスポラ症に対する効果的かつコストパフォーマンスに優れたワクチン開発の道を開き、他の感染症への応用性も明示することである。 前年度(平成28年度)の研究では、経口投与型ワクチンとしての、1.大腸菌由来易熱性毒素(LT-B)アジュバントの構築、2.ワクチン用原虫抗原の遺伝子クローニング、3.遺伝子の形質転換クラミドモナスの培養条件の検討、4.新規クラミドモナスの分離、を行った。 本年度では、1.ワクチン用原虫抗原のクラミドモナスでの形質転換、2.LT-Bおよびワクチン用抗原の共形質転換、を主に行った。以下にその詳細について報告する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1.ワクチシ用原虫抗原の遺伝子クローニングおよび形質転換:ワクチン用抗原としてはタキゾイト表面由来NcSAGlおよびブラディゾイト由来抗原NcBAGlの遺伝子をクラミドモナスのためのコドンの最適化を行い、Chlamydomonas reinhardtii 137c株(Invitrogen)へ、Gene Pulser II(Bio-Rad)を用いて500V, 50μF, 800Qの条件下で遺伝子導入を行い、クラミドモナスへ形質転換を行った。導入遺伝子体の選択は抗生物質であるZeocinを含むTAP寒天培地にて10~14日、26℃での培養で行った。その結果、クラミドモナスを宿主としてNcSAG1およびNcBAG1の蛋白発現はSDS-PAGE上でそれぞれ単独で確認することができた。 2.LT-Bおよびワクチン用抗原のクラミドモナスでの形質転換および共発現:前年度にはLT-Bのクラミドモナスへの遺伝子導入はpChlamy-4(Invitrogen)を用いて行っていた。しかし本ベクターはN. caninum抗原遺伝子NcSAG1およびNcBAG1遺伝子の導入に用いるために、LT-B導入用に選択用薬剤の変更の必要性からベクターの変更を行う必要があった。ベクターにはpChlamy-3/D TOPO(Invitrogen)を使用し、選択にはHygromycinを用いた。方法としてはNcSAG1あるいはNcBAG1が遺伝子導入されているクラミドモナスへLT-Bを組換えたpChlamy-3/D TOPOを形質導入し、Hygomycinをマーカーに導入体を選択した。その結果、NcSAG1あるいはNcBAG1の蛋白発現は共発現体と単独体にはSDS-PAGE上では顕著な差は認められなかった。一方、LT-Bの発現は単独体に比べて、共発現体での発現が減弱化した。現在その理由を解析中である。
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Strategy for Future Research Activity |
1.ワクチン抗原とLT-Bの共発現におけるLT-Bの発現の減弱化については、さらに発現体のスクリーニング数を増加させることが第1点となる。さらに改善されない場合にはベクターをpChlamy-3/D TOPOからpChlamy-4に換え、pChlamy-4にHygromycinの薬剤耐性マーカーを付与させ、再度LT-Bの形質転換を図り、共発現を行うこととする。 2.遺伝子の形質転換クラミドモナスの培養条件の検討:形質転換したクラミドモナスの培養について、2つの方向性が必要となる。1点目はスケールアップした条件で培養効率をどのように上げていくかである。これには培養温度、光度、溶存酸素両、溶存炭酸ガス量、培養撹拌速度等の検討が必要である。2点目は抗原の発現性を重視した方向性である。2点目については発現用ベクター、コドンの最適化との兼ね合いが重要である。 3.ワクチンとしての剤型の検討:形質転換クラミドモナスにおける経口投与型ワクチンの剤型の検証が必要となる。すなわち、培養状態のままの液状ワクチンが良いのか、あるいは凍結乾燥ワクチンが良いのかを検討する必要がある。 4.経口投与型ワクチンとしての簡易評価:クラミドモナスにおける標準株ならびに野外分離株の形質導入体における経口投与型ワクチンとしての評価を行う。それぞれの剤型でワクチンをマウス経口投与によって抗体産生性を評価し、ならびに攻撃感染による防御能の評価も行う予定である。
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Causes of Carryover |
平成29年度の研究において、ワクチンとしての蛋白抗原の発現不十分につき、一部動物実験が履行できなかったため、動物として計上していた予算が次年度へと繰り越しになった。 平成30年度の研究ではこの前年度の動物試験を改めて施行するため、前年度予算からの動物およびその維持費をその研究に充填する予定である。
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