2016 Fiscal Year Research-status Report
ゲノムのゆらぎを基盤とするカンピロバクターの宿主適応及び病原性変動に関する研究
Project/Area Number |
16K08040
|
Research Institution | National Institute of Health Sciences |
Principal Investigator |
朝倉 宏 国立医薬品食品衛生研究所, 食品衛生管理部, 部長 (40370936)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中村 寛海 大阪市立環境科学研究所, その他部局等, 研究主任 (00332445)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | カンピロバクター / ゲノム変動 / 野鳥由来 / 鶏腸管定着性 |
Outline of Annual Research Achievements |
カンピロバクターは世界中で猛威を振るう食品媒介性感染症起因菌であり、食用に生産される鶏生体へ安定的定着を果たすことが知られている。生産段階での本菌制御策の構築は急務の課題である。鶏へのカンピロバクター侵入経路は未だ不明であるが、野鳥は媒介者として想定されている。一方、野鳥分離株の多くはヒトや鶏分離株とは分子遺伝学的に異なった性状を示すとの報告もある。本研究では食品媒介性感染症として世界中で猛威を奮うカンピロバクターが,主要な感染源動物である鶏で定着性を獲得する機序に関する知見を得ると共に、ヒト感染過程に於いて顕れるゲノム変動に着目し,宿主適応・病態発現形質等の多様性を裏付けるゲノム可動域の特定,更にはこうした変動を担う腸内菌叢を特定することで,本菌の生態や病態発現等に係る分子基盤の解明を行うことを目的とする。 平成28年度には、野鳥由来C.jejuni計3株を対象として、2週齢の鶏への経口感染実験を行い、2週間経過後に当該生体盲腸便を採材し、接種菌株の鶏腸管内における定着性を測ると共に、各接種菌株につき、50の派生株を採取し、運動性・細胞付着性・バイオフィルム形成性等の形質変動を親株と比較検証することで、鶏定着を通じた当該形質への影響を評価した。比較対照には、ST-21CCに属するST-4526株を用いた。野鳥由来株の鶏腸管定着性はST-4526株に比べ、約1.1-2.4対数個/g低値を示したが、鶏生体通過派生株を再度鶏感染実験に供したところ、派生株の一部は有意な定着性亢進を認めた。鶏定着性に変動を顕した派生株を上述の形質試験に供したところ、多くは同形質に顕著な変動を示し、特にバイオフィルム形成性の変動は宿主定着性の変動と関連性が高いと思われる成績を得た。代表株に関する比較ゲノム解析を通じ、運動性関連遺伝子群の変異が主体であることを明らかにすることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
野鳥由来C.jejuni計3株を対象として、2週齢の鶏への経口感染実験を行い、2週間経過後に当該生体盲腸便を採材し、接種菌株の鶏腸管内における定着性をはかるとともに、各接種菌株につき、50の派生株を採取し、親株に対比した場合の運動性・細胞付着性・バイオフィルム形成性等の表現形質変動を検証することで生体通過・定着を通じた当該形質への影響を評価した。比較対照には、ST-21CCに属するST-4526株を用いた。野鳥由来株の鶏盲腸定着性は、ST-4526株に比べ、約1.1-2.4対数個/g低値を示したが、鶏生体通過派生株を再度鶏感染実験に供したところ、一部の派生株では有意な腸管定着性の亢進を認めた。野外株に比べて鶏腸管定着性に変動を顕した派生株をバイオフィルム形成性、運動性、腸管上皮細胞付着・侵入性試験に供したところ、多くは同形質に顕著な変動を示し、特にバイオフィルム形成性の変動は宿主定着性の変動と関連性が高いと思われる成績を得た。代表株に関する比較ゲノム解析を通じ、運動性関連遺伝子群の変異を確認することができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成29年度には以下の研究項目を検討する。 ・ヒト臨床分離株の遺伝的プロファイリングと病原性スクリーニング:国内食中毒事例において食品及び(又は)ヒト臨床例より分離されたCj/Cc 株を対象に,MLST法を用いて各菌株の系統遺伝学的位置付けを行い,事例内で同一遺伝子型を示す複数の株を選定する。 ・ヒト臨床分離株間での表現形質解析:本菌感染に伴う病態発現または環境抵抗性に関与する表現形質に着目し解析を進める。特に運動性については糖鎖修飾に伴う鞭毛活性に注視する。 ・ヒト臨床分離株間でのゲノム変動解析:同一集団感染事例内で遺伝子型・表現形質の一方または双方に差異を示す菌株群を選定し,全ゲノムデータを取得することで,各感染事例の原因菌が複数に分岐していたのか,或いはヒト感染を通じたゲノム変動が生じたかを決定する。全ゲノム配列解析及び挿入・相同組み換え領域の特定を行う. ・宿主感染を通じたゲノム変動に係る再現実験:上項を通じて同定された構造遺伝子群の変動が生体感染に伴い共生する腸内菌叢に依存するかを検証するため,6-8 週令のC57/BL6 マウスに,複数の抗生物質を投与し,16s rRNA pyrosequencing により構成菌叢を予め把握した上で,ゲノム変動源と目される菌叢の構成比を高める。ゲノム解読対象菌株を経口接種し,感染2 週間後の生体糞便より,各群96 集落を接種菌派生株として回収する。これと平行し,被験株をMHB 中で継代培養を行い,同様に派生株として回収する(対照群)。各派生株のゲノム変動領域のスクリーニングを行う。更にマウス回収派生株における対象遺伝子群の配列変動を対照群成績と比較し,生体感染に伴う可変構造遺伝子群の詳細なプロファイル化を行う。
|
Causes of Carryover |
昨年度末は消耗品購入に想定に比べ時間を要し年度内の調達が困難となったため。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度は使用予定品目の調達方法・時期等に関する計画を早期に精査し、実行する。
|
Research Products
(10 results)