2017 Fiscal Year Research-status Report
バクテリオファージを活用した鶏大腸菌症の制御法の構築
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16K08050
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
村瀬 敏之 鳥取大学, 農学部, 教授 (20229983)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | バクテリオファージ / 鶏 / 大腸菌症 / 発育鶏卵 / 鶏舎 / 環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度環境材料から分離したファージのうち4株は、ゲノム解析の結果いずれも新規のファージである可能性が考えられた。 鶏舎環境を模した条件下に存在する鶏大腸菌症由来大腸菌株(APEC)に対するファージの影響を、昨年度得られたファージサンプルから純化したファージ株を用いて検討した。採卵鶏由来APEC株D137(3 x 10^4 CFU)を、ガラスシャーレに入れて滅菌済みの4.5 cm四方の濾紙の全面に滴下し、その直後に10^8 PFU/mlのファージ液の0.1 mlを濾紙全面に噴霧した。D137株を溶菌するファージ株Φ137を接種した場合、24時間後の濾紙上の生菌数は0時間に比べ約10^2倍に増加したのに比べ、溶菌しないΦ488株を接種した群では10^5倍に増加した。しかし、48及び72時間後にはいずれの群においても菌数は10^8 CFUを超え、ファージを接種しない対照と比べ有意な差はなかった。Φ137のファージ力価は0時間に比べ24時間後に有意に高い値を示し、48及び72時間も同等であった。APEC株D137を接種しない場合0時間~72時間におけるファージ力価は一定であった。 APECの病原性を推定することが可能な発育鶏卵を用いた実験系で予備的な検討を実施した。すなわち、12日齢の発育鶏卵各12個にAPEC株D488及びD137株(100-300 CFU)を接種した場合、接種2日後までの死亡率はそれぞれ39及び86%であった。D488株を溶菌するファージ株DF10、DF12及びDF19をD488株と同時に接種した場合の死亡率は4~17%、D137株と同時に接種した場合の死亡率は17~25%であった。これらのファージ株はD137株を溶菌しないがこれを宿主として低レベルの増殖を示した。接種2日後までに死亡及び生残した発育鶏卵のいずれからも接種菌株のAPECが分離された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度環境材料から得られたファージサンプルからファージ株を純化して今年度の研究に供試した。鶏舎環境を模した条件下において、宿主となるAPEC株が存在する場合、これを溶菌するファージ株の感染及び増殖が起こり、APEC株の増殖を抑制することが明らかとなった。一方、そのAPEC株を溶菌しないファージ株はそれを宿主として増殖せず、APEC株の増殖を抑制することはなかった。加えて、鶏舎環境を模した条件下にファージ液のみを存在させた場合、ファージは72時間までその力価が維持されることが明らかとなった。したがって、鶏の飼養環境中にAPEC株を宿主とするファージを散布した場合に環境中のAPECの菌数を減少させる可能性が示唆された。 APECの病原性は発育鶏卵への接種により推定することが可能であるので、本実験系におけるファージの有効性を検討した。その結果、APEC株を溶菌するか宿主菌として増殖が可能なファージ株をAPEC株と同時に発育鶏卵に接種した場合、ファージを接種しない場合に比べ、発育鶏卵の死亡率が減少した。すなわち、APECの病原性を減弱する可能性が示唆された。 以上の成績に加え、鶏舎環境を模した条件下及び発育鶏卵を用いた接種のいずれにおいても、ファージとの接触後に生残する大腸菌の存在も明らかとなった。すなわち、接種したAPEC株に由来しファージに耐性を示す変異菌株が出現したことが明らかとなった。したがって、今後これら変異株におけるファージ耐性機構を明らかにすることにより、より有効なファージの利用法を検討することが可能となった。 以上の理由から、本研究はおおむね順調に進展しているものと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度の研究結果から、接種したAPEC株を宿主として増殖するファージに接触後に、当該APEC株に由来しファージに耐性を示す変異株が出現することが明らかとなった。より有効なファージの利用法を検討するため、これら変異株におけるファージ耐性機構を明らかにする必要がある。よって、平成30年度においては、変異株に対するファージの溶菌活性及び吸着性等の微生物学的性状、また、変異株に生じた遺伝学的性状の解析を行う。一方、変異株の病原性を親株と比較するため、発育鶏卵を用いた解析を実施する。当初の計画では、鶏を用いた感染実験を実施する予定であったが、ファージと接触したAPEC株からファージに耐性を示す変異株が派生したことから、上記のとおり耐性株の性状解析及び耐性獲得機構の解明を行うことが重要と考えられたため、感染実験を見合わせることが妥当と判断した。加えて、ファージ耐性変異株の出現を抑制する条件の設定を、発育鶏卵を用いた実験系において検討する。また、ファージゲノムの解析を継続する。
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