牛の子宮内膜炎に関するファージを用いた新規治療法の開発

2018 Fiscal Year Research-status Report

• Project/Area Number: 16K08055
• Research Institution: Kagoshima University
• Principal Investigator: 安藤 貴朗 鹿児島大学, 農水産獣医学域獣医学系, 准教授 (40406898)
• Co-Investigator(Kenkyū-buntansha): 樋口 豪紀 酪農学園大学, 獣医学群, 教授 (00305905) ; 岩野 英知 酪農学園大学, 獣医学群, 教授 (60382488) ; 窪田 力 鹿児島大学, 農水産獣医学域獣医学系, 教授 (80420652)
• Project Period (FY): 2016-04-01 – 2020-03-31
• Keywords: 子宮内細菌 / 牛 / ファージ

Outline of Annual Research Achievements

国内の牛の生産においては主に乳用牛および肉用牛が用いられている。乳用牛では定期的な分娩による泌乳量の確保と後継牛の生産、肉用牛では分娩間隔を短縮することで多数の産子を獲得することにより、農家における収益を増加させることができる。分娩後には正常な産褥期生理として多くの牛で子宮内に細菌感染が認められるが、一部の牛では生理的な空胎期間を過ぎての細菌感染が持続することがあるため炎症が持続して不妊の原因となる。細菌感染症の治療としては抗生剤の使用が一般的であるが、生産物が食用に供される牛においては、薬剤耐性菌の出現が懸念されることから抗生剤を用いない新規の治療法が望まれている。これに替わる治療法としてファージの抗菌作用を用いた技術を応用して、子宮内膜炎の起因菌種に対して有効なファージを利用した新規治療法を確立する目的で調査を行った。
平成28および29年度は、分娩後の子宮内感染細菌の分離として、分娩2週後の黒毛和種繁殖牛（肉用牛）28頭およびホルスタイン搾乳牛（乳用牛）29頭について、子宮からの灌流液採取と細菌分離と菌種の同定を行った。平成30年度は分娩2週後の黒毛和種繁殖牛15頭およびホルスタイン搾乳牛13頭について、同様に細菌分離と菌種の同定を行ったところ、黒毛和種牛では5頭（33%）、ホルスタイン種では4頭（31%）のみで有意な細菌の増殖が認められた。これらの結果は、前年までの細菌分離率（黒毛和種牛80％以上、ホルスタイン種牛70% 以上）よりも著しく低値となった。また、平成29年度までは黒毛和種およびホルスタイン種牛の子宮内での細菌感染は大腸菌群が最も多かったが、平成30年度は連鎖球菌群の検出が多く、大腸菌に加えて連鎖球菌群に対するに関ファージの溶菌性についても詳細に調査中を行っている。

Current Status of Research Progress

3: Progress in research has been slightly delayed.

Reason

平成28および平成29年度の研究では、分娩後の子宮内感染細菌の分離を、子宮からの灌流液採取と細菌分離について黒毛和種繁殖雌牛およびホルスタイン搾乳牛から採取した。平成29年度については分離された細菌種についてばらつきが大きく、ファージの溶菌性を確認するための細菌種を特定することが困難であった。平成29年度の調査を継続する上で、最も分離される可能性の高い菌が大腸菌群であると特定されたことから、大腸菌群に対するファージの溶菌性について詳細に検討するとともに、症例数を継続して増やすことで様々な症例に対応できるファージカクテルの特定を平成30年度の研究計画に反映するよう計画した。しかし、平成30年度は子宮からの細菌分離率自体が低下し、平成29年度までは分娩後2週で黒毛和種およびホルスタイン種ともに70％以上であったが、平成30年度は細菌分離率が30％程度まで低下したため、ファージの溶菌性を確認するための充分な材料が得られなかった。また、大腸菌以外にも連鎖球菌の分離率が高くなったことから、今年度は大腸菌および連鎖球菌の2種類の細菌に対しての調査を継続する予定である。

Strategy for Future Research Activity

今後の研究実施予定としては、引き続き分娩後の子宮内感染細菌の分離とファージの選択を実施する。具体的には、黒毛和種繁殖牛およびホルスタイン搾乳牛より①子宮からの灌流液採取と分離細菌の同定、② 子宮内感染細菌に対する特異的ファージの分離とカクテル化の2段階で調査を継続する。さらに、細菌性子宮内膜炎に対するファージセラピーの応用として、臨床応用の可能性について黒毛和種繁殖牛を対象に、①子宮内膜炎に対するファージセラピーの実施および②治療後の繁殖成績の解析について調査を行う。
細菌性子宮内膜炎に対するファージセラピーの実施については、子宮灌流液を採取した黒毛和種繁殖雌牛のうち細菌、特に大腸菌群および連鎖球菌が分離されたものを供試牛として使用する。細菌が分離された症例については、ファージの溶菌性をin vitroで調査するとともに、in vivoにおいて子宮灌流液の採取1週後（分娩3週後）に溶菌性を持つファージを子宮内に投与する群（ファージ群）と、生理食塩水を投与する群（対照群）に分け、ファージ投与の2週後（分娩5週後）に灌流液を採取し、灌流液からの細菌の分離、白血球サブセット解析、サイトカイン測定を実施するとともに、生殖器超音波検査を行い子宮および卵巣機能の評価を実施する。さらに、ファージ群および対照群について、治療後の繁殖成績（授精日数、授精回数、空胎期間、受胎率など）を比較して効果を検証する。

Causes of Carryover

次年度使用額が生じた理由について、分娩後の子宮灌流液から採取した細菌について、病原性を有していると考えられる細菌の検出率が想定ほど多くなかったことが挙げられる。そのため、ファージを用いた治療を実施するための細菌種を特定できず、ファージの溶菌性を解明するための手技をすべての細菌に対して実施することができなかった。また、子宮灌流液データの採取について、追加での検体採取を行いホルモンの測定を行うため、in vivo調査での症例については平成31年度に測定を予定することとした。