2017 Fiscal Year Research-status Report
海馬神経伝達および神経ネットワークにおける細胞内Ca ホメオスタシスの役割
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16K08070
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
伊藤 公一 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任准教授 (50330874)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
桑原 正貴 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (30205273) [Withdrawn]
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 加齢 / Ca2+ホメオスタシス / シナプス / 長期増強 / 記憶・学習 |
Outline of Annual Research Achievements |
記憶・学習に重要な部位として知られる海馬ニューロンの神経伝達および神経ネットワークにおけるCa2+シグナルは細胞内Ca2+ホメオスタシスの基に一定に成り立っており、加齢性に脳機能が低下する一因はこれが崩壊することにあると考えられる。しかしながら神経細胞における細胞内Ca2+ホメオスタシスに関与するメカニズムの詳細は不明である。Ca2+ホメオスタシスは細胞内Ca2+の流入・放出および排出のバランスによって成り立っている。本年度はまず前年度に稼働状態となったパッチクランプ法をはじめとする電気生理学的記録および画像解析装置を用いたCa2+イメージング法を用いて、加齢によってシナプス長期増強が減弱していく様子を時系列に沿って定量的に記録した。さらにこれを基に、前年度において明らかになった加齢性に発現量が変化するCa2+流入関連タンパク質の同定に引き続き、加齢性に発現量が変化するCa2+排出関連タンパク質の同定を行った。この結果、Na+-Ca2+交換系分子の関与がないことが示唆されている。さらに生体への応用を考え、病態モデルとして自然発症高血圧モデルラットを用いて脳スライスから記録したところ、高血圧動物においてより長期増強が強くなることを見いだした。今後は加齢によって発現が変化するCa2+放出関連分子群の同定を行うことにより総合的なCa2+ホメオスタシス関連タンパク群の機能制御を考察し、高血圧・自然老化モデル動物を用いてその役割を検証する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時の本年度研究計画として、前年度の結果から得られた、①海馬苔状線維シナプス伝達とCa2+画像解析の同時記録による細胞内Ca2+の関与の解析および②シナプス伝達に関与するCa2+結合タンパク質の同定を基にして、③シナプス伝達に関与するCa2+結合タンパク質の細胞機能における役割および④海馬スライスを用いた苔状線維LTP記録を目標としていたのであるが、本年度の研究は予定をおおむね順調に進展していると思われる。この理由として、前年度立ち上げた①のパッチクランプ法によるシナプス可塑性の電気生理学的評価と画像解析装置によるCa2+イメージング法が軌道に乗り、これを利用した加齢性シナプス機能減弱が詳細に検討出来ることが可能になったこと、そして②による加齢性に発現が変化するCa2+流入関連分子群の同定からCa2+排出関連分子の同定にまで至ったこと、およびその分子の機能を解析するために薬理学的遮断薬を用いた検討や病態モデル動物を用いた苔状線維シナプスLTPの記録に成功しているからである。今後さらにCa2+放出関連分子の検討を行う予定で、最終的には細胞内Ca2+ホメオスタシスの総合的な理解のみならず、創薬ターゲットの探索につながる可能性を秘めているところから、ここまでのところおおむね順調であると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方策として、現在行っている加齢によって発現が変化するCa2+ホメオスタシスに関与する分子群の同定をさらに進めていくことを予定している。また電気生理学的測定と画像解析の同時測定を引き続き行うことによって上記で探索された分子群の生体における機能の解析を行う。必要に応じて遺伝子欠損動物や薬理学的阻害剤を用いることによってその詳細を検討していくことも予定している。これらの解析によって個体レベルにおける検討を行うところまでいけば、その分子群をターゲットとした創薬に重要な情報を与えるだろう。また認知機能に影響するθ波を代表とした脳波を、無拘束下で長期的に記録をおこなうテレメトリーシステムを用いて調べることも予定しており、これらの検討が進めば加齢性脳機能低下の機序解明のための基礎研究だけでなく臨床応用への道も拓けることと考えられる。
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