2016 Fiscal Year Research-status Report
日本トキ集団をモデルとした希少動物保全のための遺伝的多様性評価システムの構築
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16K08084
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
谷口 幸雄 京都大学, 農学研究科, 准教授 (10252496)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 希少動物の保全 / 遺伝的多様性 / トキ / マーカー型判定法 / 次世代シークエンサー / マルチプレックスPCR / SNP / マイクロサテライト |
Outline of Annual Research Achievements |
希少動物であるトキの保全においては、個体数の増加を図るとともに、集団の遺伝的多様性を把握し維持することが求められる。遺伝的多様性の把握・維持のためには数百程度のDNA多型マーカーを簡便かつ低コストでタイピングする手法を確立する必要がある。我々は、日本トキ集団の始祖個体を対象に次世代シークエンサー(NGS)を利用した解析を実施し、5万を超えるDNA多型マーカー候補を検出している。本課題では、これらの候補から日本トキ集団において有効なマーカーを選抜するとともに、マルチプレックスPCRとNGSを用いた中規模のマーカー型判定法の開発を試みた。 マイクロサテライトマーカー候補、一座位あたりのアリル数が多いマーカー候補および一羽の始祖個体に特異的に検出されるアリルを含むマーカー候補を優先的に選択し、多型部位を増幅するPCRプライマーペア324組を作製した。各プライマーペアについて個別にPCR増幅を実施し、増幅産物量や単一の増幅産物が得られるかなどについて評価を行い、215組のプライマーペアを選抜した。選抜したプライマーペアについて、単独でのPCR×215反応、16~20プライマーペア混合でのマルチプレックスPCR×11反応および36~50プライマーペア混合でのマルチプレックスPCR×5反応の3種類の条件でサンプルを調製し、NGSによるマーカー型判定を実施した。NGSでは3種類のサンプルについて12-21万の塩基配列データが得られ、データ解析の結果、約15%のプライマーペアについては有効なマーカーではないと判断されたが、残りのプライマーペアについては利用できる可能性が示唆された。これらの結果から、日本トキ集団に有効なマーカーの選抜のためにはさらなる解析が必要であるが、マルチプレックスPCR/NGSによる中規模マーカー型判定法の開発は可能であると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の計画であった200程度のDNA多型マーカー候補をマルチプレックスPCRで増幅し、これらの混合物について次世代シークエンサーによる塩基配列決定によりそのマーカー型を判定するという研究課題が実行され、新規の中規模マーカー型判定法の実現の可能性が示された。しかし、次世代シークエンサーによる大規模な塩基配列データには、シークエンスエラーを含む塩基配列データ(マーカーを増幅する際のPCRにおけるエラーも含まれると考えられる)が予想以上に多く混在していたことや、DNA多型マーカーのタイピングに際してレファレンスとなるマーカー候補部位全長配列データの整備が新たに必要になるなど、データ解析に予想以上の時間を要した。このため、マルチプレックスPCRの最適化に向けての2回目の次世代シークエンサーによるタイピングは実行できず、やや計画に遅れを生じた。本年度の研究により、リファレンス配列が整備され、データ解析における問題点も明らかになったことから、次年度では、マルチプレックスPCRの反応条件を含め、データ解析法についても、さらに検討を進める必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続き、以下のようなゲノムDNAサンプルを用いてDNA多型マーカーのタイピングを実施し、有効なマーカーの選抜とマルチプレックスPCRの反応条件の最適化を進める。 1)親子間でのアリル伝達様式の調査によるマーカーの有効性の評価 数ペアのトキ親子(父、母、子2羽)を対象として、前年度に決定したマルチプレックスPCR条件に従いマーカー候補を増幅し、次世代シークエンサーによるマーカー型マーカー型判定を実施する。各個体からのサンプルをシークエンスする際には、個体ごとに異なるタグ配列を付加することで区別する。親子間での各マーカーアリルの伝達様式を調査し、遺伝様式に矛盾があるマーカーについては「真の多型マーカーではない」と判断してタイピングするマーカーから削除する。削除されるマーカーが多数存在する場合には、新たなプライマーペアを追加し、マルチプレックスPCR条件を再検討する。 2)日本トキ集団でのタイピングデータの取得・解析と判定法の確立 さらに解析に用いるトキの個体数を増加し、選抜された多型マーカーのタイピングを実施する。得られたタイピングデータを解析し、マーカー間の連鎖について調査する。完全に連鎖したマーカーについては一方を削除するなど、さらにマーカーの選抜を進める。この選抜を終了した段階で、200程度のマーカーが残るようにし、さらにとマルチプレックスPCRの反応条件の最適化を図る。
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Causes of Carryover |
研究計画の進捗にやや遅れがでており、新潟大学農学部の山田宜永教授の協力のもとで新潟大学所有の機器を使用して実施する予定であった2回目の次世代シークエンサーによるマーカー型判定が実行できなかった。このため、その経費や新潟大学への出張旅費を使用せず、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度の研究計画として、より多くのトキ個体のゲノムDNAサンプルを対象として、次世代シークエンサーによるマーカー型判定を実施する計画となっており、前年度に実行できなかった計画部分も含め今年度に実施する予定である。
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