2017 Fiscal Year Research-status Report
イモゾウムシ病原性原虫の感染伝播機構と宿主代謝制御機構の定性・定量的解析
Project/Area Number |
16K08100
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
青木 智佐 九州大学, 農学研究院, 教授 (20264103)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | イモゾウムシ / Farinocystis sp. / 感染培養系 / スポロゾイト |
Outline of Annual Research Achievements |
1.表面殺菌した既感染人工飼料育イモゾウムシ幼虫を実体顕微鏡下で解剖して脂肪体を切り出し、30%牛胎児血清および2%抗生物質を添加したMGM464培地中27℃で培養した。この初代培養を回収して、30%(w/w)Percoll密度勾配上に重層し、1,800 g、27℃、3分間遠心して、増員増殖期にある原虫細胞を含むバンドを回収した。これを同培養液に希釈して培養を開始した。培養開始後、増員増殖期にある鎌状のスポロゾイトは活発に増殖を続けていたが、その後、一部にやや球形の原虫細胞が認められ始め、鎌状の原虫細胞と小型球形の原虫細胞が混在した状態が長期間継続された。培養120日後の感染培養には、大型球形の原虫細胞であるガメトシスト(直径約30マイクロメーター)が観察され始め、その数が増加していった。現在の感染培養には、依然として多数の鎌状のスポロゾイト様原虫細胞および小型球形の原虫細胞が認められるとともに、ガメトシストに混在して遊離された多数のオーシストが観察されている。これらのことより、本原虫細胞は一定の栄養条件のみで分裂増殖および細胞分化が可能であること、またオーシストの自発的な脱嚢の可能性が示唆された。 2.1で得られた各成育ステージにある原虫細胞を含む感染培養を30%(w/w)Percoll密度勾配上に重層し、1,800 g、25℃、3分間遠心した。その結果、上部とその下方に2本のバンドが形成され、各バンドにはそれぞれオーシストおよび増員増殖期にある原虫細胞が含まれていた。増員増殖期にある原虫細胞を含むバンドを回収して、限界希釈法により個々の原虫細胞を単離し、これらを供試してEF1およびHSPプロモーターからのGFP発現コンストラクトの作製を試みた。しかしながら、いずれの方法でも安定した組込みが認められず、発現が確認されないか、または一過性の発現に留まった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究が進んでいるマラリア原虫での事例を参考にGFP発現原虫体の作製を進めたが、現在までに安定したゲノムカセットの組込みとGFP発現コンストラクトを得るに至っていない。従って、一連の研究成果として公表できず、準備段階に留まった。 一方で、本原虫オーシストは蛍光染色剤FITCに対して難染色性であるが、オーシスト表面の脂質層を処理することにより、染色性を高めることが可能となった。この方法を用いて、原虫オーシストの宿主体内への取り込みと分布までは定量化できることが確認された。 以上のことを総合して、進捗状況をやや遅れていると評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
FITC染色オーシストを供試するとともに、遺伝子導入方法を再検討・改良することでGFP安定発現原虫体の作製を行い、サツマイモ塊根育および人工飼料育イモゾウムシ個体・個体群、放射線照射によって不妊化されたイモゾウムシ個体・個体群における原虫動向を定量的に解析する。また、パルスNMR法を用いて、宿主代謝制御の変動を定性・定量且つ網羅的に解析する。具体的には、原虫オーシストを接種したイモゾウムシ個体群(事前に原虫オーシストを接種した放射線照射個体群および未照射個体群)よりイモゾウムシを経時的に採取し、特異的プライマーを用いたリアルタイムPCRに供試して原虫感染率の定量化および解析を行う。同様に、これら個体をパルスNMRに供試し、生体内物質を非侵襲的に観測する。さらに、これらイモゾウムシ組織切片の蛍光顕微鏡観察を行って、原虫の動向調査、原虫感染率の定量化および解析を行う。 また、すでに得られている感染培養と蛍光染色原虫体を組み合わせた、in vitroでの増殖と感染・伝播の定量的な解析を行う。
|
Causes of Carryover |
〔理由〕 沖縄県病害虫防除技術センターより分譲された人工飼料育イモゾウムシ個体群においてカビの発生が認められ、原虫接種試験が思うように進まなかった。また、「現在までの進捗状況」欄でも述べているように、安定したGFP発現原虫体が得られず、in vivoおよびin vitroにおける原虫感染動向を可視化し定量化する実験を開始できなかった。以上のことより、次年度使用額が生じた理由として、解析のための機器使用料が発生しなかったことと、一連の成果の公表が準備段階に留まって学会等への出張旅費および投稿費用が発生しなかったことが挙げられる。 〔使用計画〕 当該年度で推進予定であった原虫接種試験および原虫感染動向の可視化と定量化実験に係る試薬類および消耗物品の購入、成果公表のための学会等への参加に係る旅費と投稿論文作成にあたっての英文校閲や投稿料への使用を計画している。
|