2017 Fiscal Year Research-status Report
海洋性硫黄酸化細菌の機能解析とバイオリーチングへの利用
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16K08112
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
上村 一雄 岡山大学, 環境生命科学研究科, 教授 (80294445)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 硫黄酸化細菌 / 海洋性細菌 / チオ硫酸キノン酸化還元酵素 / 硫黄代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.大腸菌で発現させたチオ硫酸キノン酸化還元酵素遺伝子(tqo)産物の解析: 海洋性硫黄酸化細菌Acidithiobacillus SH株の全ゲノム配列を用いて決定したtqo遺伝子をpET22およびpET28プラスミドに導入して、非発現用大腸菌宿主DH5を形質転換した。しかし、遺伝子が組み込まれたpET22およびpET28を得ることができなかった。おそらく、tqo遺伝子産物が大腸菌細胞に毒性が強く、tqo遺伝子の導入されたpETプラスミドを保持した非発現用宿主内でわずかな遺伝子発現が起こったため、形質転換株が得られなかったと推定した。 2.SH株の系統分類学的解析: SH株は16S rRNA遺伝子の解析に基づいて、Acidithiobacillus thiooxidansと同定された。しかしながら、前年度の全ゲノム配列に基づく相同性解析の結果、Acidithiobacillusには属するが、thiooxidansとの相同性は82%と非常に低いことが明らかとなった。通常は、同一種ならば、98~99%の相同性を示すので、SH株は新種であることが明らかとなり、Acidithiobacillus thiomarinus と命名することを提案予定である。 3.末端酸化酵素の精製と遺伝子の決定: 昨年度までに末端酸化酵素としてbo型のユビキノール酸化酵素を検出している。また、精製過程でユビキノール酸化酵素活性を示す画分にTQOが含まれていることが明らかとなった。TQOは膜画分の可溶化によって精製されたが、膜内ではユビキノール酸化酵素と複合体を形成していることが示唆された。また、部分精製したbo型のユビキノール酸化酵素のサブユニットの遺伝子を決定した結果、複数のオペロンにコードされているサブユニットが複合体を形成していることが示唆されたため、その確認を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
チオ硫酸キノン酸化還元酵素遺伝子(tqo)を明らかにし、その相同性解析を行った結果、これまでに報告のない酵素であることが明らかとなった。決定した遺伝子が酵素活性を示すかどうかの確認は、遺伝子を確定するうえで重要であるが、通常の方法では組換えタンパク質を得ることができなかった。既に、チオ硫酸デヒドロゲナーゼ活性を示す酵素の遺伝子の大腸菌での発現に成功しているので、この結果は当初予期していなかった。既に述べたように、tqoの遺伝子産物が発現用宿主の大腸菌に毒性であることが考えられたため、この問題を克服するために、新たな宿主ベクター系を検討予定である。 チオ硫酸代謝にキノンが関与していることが明らかになったため、末端酸化酵素もユビキノール酸化酵素であると考えられたが、チオ硫酸で生育したSH株から部分精製した末端酸化酵素は、ユビキノール酸化酵素であった。また、この酵素の精製過程で、TQOも検出されたことから、TQOとユビキノール酸化酵素が複合体を形成していることが示唆され、チオ硫酸代謝にTQOが重要な役割を演じていることを明らかにした点は評価できる。また、ゲノム解析の結果、2種類のタイプのユビキノール酸化酵素の存在を明らかにしたが、そのうちbo型のユビキノール酸化酵素がチオ硫酸代謝に関与していることを明らかにできたことは評価できる。 ゲノム解析の成果として、SH株がAcidithiobacillus属の新種であることが明らかとなった。硫黄だけを酸化するAcidithiobacillus 属の細菌は、これまでに、thiooxidansとcaldusの2種類しか知られていなかったが、SH株が新種として加わることによって、地球規模での硫黄代謝で好酸性の硫黄酸化細菌が果たす役割を理解する上で、意義あるものであると考えている。 以上の観点から、研究はおおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は本研究の最終年度である。SH株のゲノム解析でtqo遺伝子を決定したが、大腸菌での遺伝子発現には成功していないため、新たに毒性タンパク質発現用の宿主、ならびにこれまでとは異なるベクター(pRham C-His Kan Vector)を用いて遺伝子発現を検討する。 ゲノム解析の結果、SH株は複数の硫黄代謝系を持っていることが明らかとなった。遺伝子が検出されるからといって、その遺伝子が実際に代謝に関与しているとは限らない。そこでSH株の硫黄代謝に実際に関与している遺伝子を明らかにするため、硫黄、テトラチオン酸およびチオ硫酸で生育した細胞から、メッセンジャーRNAを調製し、RT-PCRの手法を用いて、それぞれの硫黄化合物で生育した細胞内で、どの硫黄代謝系が主要な経路として機能しているかを明らかにし、SH株の硫黄代謝系の全容を解明する。 また、ゲノムには、末端酸化酵素としてシトクロームc酸化酵素の遺伝子が検出されず、bd型とbo型のユビキノール酸化酵素が存在することが明らかとなった。鉄硫黄酸化酵素細菌からは、bd型のユビキノール酸化酵素が精製されてその性質が明らかにされているが、bo型のユビキノール酸化酵素の性質は不明である。これまでの研究で、bo型のユビキノール酸化酵素がチオ硫酸代謝に関与していることが明らかとなったので、その精製と性質の解明を最終年度に精力的に実施する。 さらに、ユビキノール酸化酵素がTQOと複合体を形成していることが示唆されているため、その確証を得る研究も同時に実施し、SH株のチオ硫酸代謝酵素系の構造を明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
1.理由:平成29年末に、平成30年4月16日から3日間、ウィーンで開催される硫黄代謝に関する国際シンポジウムの案内を受け取った。この国際会議は、2年に一度開催されており、硫黄代謝の唯一の国際会議であるため、研究の最先端の情報が得られると同時に、本研究成果を広く知ってもらう機会として最適である。当初は、この国際会議への参加は考慮していなかったが、この会議には過去に参加したことがあり、知り合いの研究者からの誘いもあったので参加を決断した。平成29年度の研究目標はほぼ達成していたので、残額は少額(4840円)であったが、次年度の予算として使用することとした。 2.使用計画:平成30年度は本研究の最終年度で予算は70万円である。上記のように、ウィーンで開催される国際会議に参加するための旅費が研究費に対して比較的大きな割合を占めることになるため、残予算は旅費の一部として使用する。
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Research Products
(7 results)