2016 Fiscal Year Research-status Report
サルのお腹は世界を救う~葉食いザルからの植物バイオマス分解微生物の取得と応用~
Project/Area Number |
16K08118
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
相澤 朋子 日本大学, 生物資源科学部, 助教 (60398849)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
浦井 誠 国立感染症研究所, 真菌部, 主任研究官 (20398853)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | バイオマス / ヘミセルロース / セルロース / 微生物 / 共生 / サル |
Outline of Annual Research Achievements |
石油や石炭、天然ガスといった化石エネルギー資源の消費量削減は今や世界的な課題となっている。この消費量削減に役立つと期待されているのが、植物性バイオマスを原料にしたエタノール生産などのエネルギー変換技術である。しかし、トウモロコシなどに含まれるデンプンと異なり、草本・木本性バイオマスに多く含まれるセルロースやヘミセルロースなどは粉砕などの物理的処理に加え、酸やアルカリなどによる前処理なしでは糖化効率が低く、非食用植物のバイオマスを利用したエタノール生産には糖化工程の高効率化 が重要とされている。 そこで本研究では、葉を主食にしている生物由来の微生物群を解析することで新たな植物バイオマス分解微生物の取得を目指す。対象としたのは、木の葉などを主食としているアカアシドゥクラングールである。このサルは、生存がきわめて危険な状態にある「絶滅危惧種」とされ、日本では神奈川県横浜市のよこはま動物園でのみ飼育されている。しかし食餌として与える葉の種類が切り替わる際に時折体調を崩し、1週間以上食餌を取らなくなる個体がでることがあり、同サルの飼育上の問題となっている。 本研究では、アカアシドゥクラングールのもつ微生物群集構造を解析することで、新たな木質系バイオマス分解微生物の取得と応用、さらには絶滅危惧種である同サルの健康管理に有益な知見を得ることを目指し、以下に示す研究課題に取り組んだ。まず、アカアシドゥクラングールが最も活発に葉を摂食する5-7月に採取する試料を主な単離源として用い、微生物の単離を行った。同時に、アカアシドゥクラングール糞便中に存在する菌相をPCR-DGGE法等で解析するために、DNA抽出条件などの検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
アカアシドゥクラングールの糞便の定期的にサンプリングを行い、微生物群集構造(菌相)解析と体調変化の相関関係などが解析できるように試料を保存している。 アカアシドゥクラングールが最も活発に葉を摂食する5-7月に採取する試料を主な単離源として用い、同サルが食べている葉の粉末や非食用・混合植物バイオマスを加えた培地、色素結合セルロース、色素結合ヘミセルロースを炭素源として用いて単離を試みている。現在、単離できた候補株については、セルロース、へミセルロースを基質として生成した還元糖量をDNS(Dinitro salicylic acid)法で定量、バイオマス分解酵素活性を検討し、選抜中である。これらにより酵素活性が確認できた単離菌株が多数に及ぶ場合は、効率的な同定を行うために、一旦PCRにより16S rDNA約1.5 kbpを増幅した後に制限酵素で切断し、切断パターンの違いを利用したRFLP (restriction fragment length polymorphism)によるグループ分けを行う。単離菌株に新規分類群に属する可能性の高いものが含まれていた場合には、国際的に認められる新規菌株としての提案に必要な実験を行う予定である。 サルの糞便中には葉に含まれるポリフェノールなどが多く含まれるため、通常のDNA抽出キットでは充分なゲノムDNAが得られなかった。そのため、抽出試薬の種類、処理を検討し、安定してDNAが抽出できるようになった。
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Strategy for Future Research Activity |
牛と異なり単胃であるサルは、テングザルなど一部を除き反芻は確認されていない。アカアシドゥクラングールが反芻なしで十分な栄養を吸収するためにも、腸管内に強力な木質系バイオマス分解菌が存在し、葉の消化を補助している可能性がある。体調不良の原因については、食餌の葉の変化と消化管内の微生物の種類が適合するのに時間がかかるため、適切なバイオマス分解酵素が腸管内で生産されないことによる「胃腸のもたれ」である可能性もあるが、サルの腸管内微生物群集構造(菌相)と体調変化に関する報告は殆どない。現在単離、選抜している微生物の種類を検討することにより、アカアシドゥクラングールは多様な葉に適応して菌相を変化させる事が出来るのか、多様な糖化酵素をもつ微生物群をもっているか否かが判明すると期待している。 今後は、16S rDNAのV3領域を用いたPCR-DGGE法により、糞便内微生物群集構造の変動の解析と微生物種の同定を行う予定である。さらに、微生物群集構造の変動と、餌の葉の種類や季節の違い、体調管理記録を複合的に考察し、食餌や季節と菌相の変動に相関があるかどうかも検討する。なお、同サルの行動観察記録は連携協力者による過去3年分のデータがあるため、微生物群集構造と体調、さらに活動量に関連性があるかについても検討できる。
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